ニュー・ウェイヴ、今でいうポスト・パンクを代表するバンドの一つがエコー&ザ・バニーメンです。パンク直後の英国ではそれこそ雨後の筍のように数多のバンドが登場しました。その中にあって、その時代の気分を最もよく表しているのが彼らだと思います。

 彼らは英国でもポスト・パンクの聖地マンチェスターではなく、ビートルズを生んだリバプールの出身です。ボーカルのイアン・マッカロクは1970年代の終わりに当地でクルーシャル・スリーというバンドを組んでいました。リバプール音楽シーンの象徴たるバンドです。

 このバンドの後の二人はジュリアン・コープとピート・ワイリー、それぞれティアドロップ・エクスプローズ、ワー!で成功しました。今ではネオ・サイケと呼ばれるサイケデリックな音楽が持ち味です。それも英国らしく、黒人音楽の影響をそこまで感じさせないサウンドです。

 イアンは1978年にギターのウィル・サージェント、ベースのレス・パティンソンでバンドを結成します。ドラムはエコーという愛称のドラム・マシーンが担当しており、バンド名はその名をとってエコー&ザ・バニーメンとされました。当時のちゃちなマシーンかと思うと面白いです。

 彼らはその布陣でライヴもこなし、インディーズからシングルを発表しますが、レコード会社に説得されてトリニダード生まれのドラマー、ピート・デ・フレイタスをメンバーに加えることになります。あわれエコーは路頭に迷ってしまったようです。本作品にも登場しません。

 このアルバムはエコー&ザ・バニーメンのデビュー作「クロコダイルズ」です。プロデューサーはカメレオンズ、実体はマネージャーのビル・ドラモンドとデヴィッド・バルフの二人です。ドラモンドは後にKLFで物議を醸します。デヴィッドはジュリアンと活動していた人です。

 さらに先行シングルのプロデュースにはイアン・ブロディ―が係わっています。彼はドラモンドと一緒にビッグ・イン・ジャパンというバンドをやっていた人です。このあたりの人脈を辿っていくと芋づる式に英国の音楽シーンが持ち上がってきます。

 さて、本作品です。この作品は評論家諸氏からは大いに絶賛されました。全英チャートでも17位まで上がって、見事ゴールド・ディスクに輝きました。ここは意見の分かれるところですが、今でも彼らの最高傑作だと主張する人も多い作品です。

 彼らは本作品の頃はまだ日本でさほど話題になってはおらず、私も2枚目から入った口です。本作品はデビュー作品ということで、当たり前ですが次作以降に比べて素直で初々しいです。彼らの生の姿が刻印されており、そこをどう評価するかがポイントなのでしょう。

 きらきらしたサージェントのギター、ぶんぶんうなるパティンソンのベース、かっちりしたビートを刻むデ・フリータスのドラム、そして憂いを帯びたエコーの森から聴こえてくるイアンのボーカル。新鮮なサウンドです。なおイアンはジム・モリソンとよく比較されました。似てますかね?

 ほとんどブルース臭はせず、しゅっとしたサイケデリックなサウンドです。パンクを通過したネオ・サイケな感覚が横溢しています。あまり作り込まない荒々しいサウンドが初々しいです。ここでのサウンドには新しい感覚を感じたものです。かっこいいデビュー作です。

*2013年11月2日の記事を書き直しました。

Crocodiles / Echo & the Bunnymen (1980 Korova)



Songs:
01. Going Up
02. Stars Are Stars
03. Pride
04. Monkeys
05. Crocodiles
06. Rescue
07. Villiers Terrace
08. Pictures On My Wall
09. All That Jazz
10. Happy Death Men

Personnel:
Ian McCulloch : vocal, guitar, piano
Will Sergeant : guitar
Les Pattinson : bass
Pete de Freitas : drums