今ではどうなのか知りませんが、私が中学生の頃は、音楽の授業でしかクラシックを聴かない中学生でもベートーヴェンの「運命」とヴィヴァルディの「四季」は知っていました。ヴィヴァルディはベートーヴェンと並ぶほど日本では有名だったんです。

 私も当時は音楽の授業組でしたけれども、久しぶりに「四季」を聴き通してみてよく覚えていることに驚いてしまいました。「春」の冒頭くらいは分かるとは思っていましたが、それにとどまらず、春夏秋冬のほとんどが懐かしい。恐るべしは「四季」です。

 この作品はグラミー賞に輝いた名盤です。指揮者はトレバー・ピノック、演奏はもちろんピノックが結成した古楽オーケストラのジ・イングリッシュ・コンサートです。ヴァイオリニストとしてクレジットされているのはサイモン・スタンデイジ、当時のメンバーです。

 ジ・イングリッシュ・コンサートはロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館が所蔵している古楽器を活用するために結成されたオーケストラです。古楽ですから当然バロック音楽を得意としていますので、ヴィヴァルディなどそのど真ん中というところでしょう。

 ジ・イングリッシュ・コンサートはドイツ・グラモフォンの古楽レーベルであるアルヒーフと専属契約を結んで数多くの作品を録音・発表しており、本作品もその一つでヴィヴァルディの「四季」に関しては古楽のスタンダードとされている名盤だということです。

 ジャケットもふるっています。ヴィヴァルディよりも1世紀ほど昔のイタリアの画家リベラーレ・ダ・ヴェローナが描いた絵からアイオロスを取り出して印象的なジャケットに仕上げています。ポセイドンの子にして風の神アイオロスはまるでアフロの風神さんのようです。

 このジャケットを見ていると、ヴィヴァルディの「四季」はディズニーの「ファンタジア」で使われたのではないかと事実と異なる妄想が湧いてきます。「四季」の各楽章につけられているソネットを台本にして風神や雷神が頭の中で動き出すようです。

 もともと「和声と創意の試み」というヴァイオリン協奏曲全12曲のうちの最初の四曲を「四季」と称するだけなのだそうですが、もう私たちには「四季」という曲以外の何者でもありません。長さもちょうど40分程度とまるでLPを予言していたかのようなフィット感です。

 おまけに4曲それぞれが3つの楽章に分かれており、それぞれが短くて二分足らず、長くて5分弱とまるでポップスようです。しかも各楽章を描写するソネットがありますから、これが歌詞カードのような役割を果たします。ますますポップスですね。

 ピリオド楽器を使ったアンサンブルですから、通常のオーケストラの派手な音響とは異なります。とはいえ、けっして弱弱しいわけではなくて、とてもはきはきとした気持ちの良い演奏です。この曲にはこうした楽器の音色が似合うとしみじみ感じた次第です。

 カップリングされている「オーボエとヴァイオリンのための協奏曲」と「二つのヴァイオリンのための協奏曲」も「四季」と同じような構造の曲ですが、こちらはソネットがありません。応用問題として自分で書いてみろというアルヒーフからの挑戦状でしょうか。

Vivaldi : The Four Seasons / Trevor Pinnock (1982 Archiv)



Songs:
01-12. ヴィヴァルディ:四季
(bonus)
13-15. ヴィヴァルディ:オーボエとヴァイオリンのための協奏曲 変ロ長調 RV548
16-18. ヴィヴァルディ:二つのヴァイオリンのための協奏曲ト長調RV516

Personnel:
Trevor Pinnock : conductor
Simon Standage : violin
The English Concert
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David Reichenberg : oboe
Elizabeth Wilcock : violin