デヴィッド・バーンの4年ぶりのソロ・アルバム「ルック・イントゥ・ジ・アイボール」です。ジャケットは数種類用意されたようですが、結局、バーンの顔のアップに決まりました。タイトルとあいまって眼球を覗き込まざるをえない写真です。目の色が妙です。

 この作品は1998年にニューヨークのニッティング・ファクトリーにてバラネスク・カルテットと共演した時から始まったとバーンは語っています。この時点ではまだ完全とは言い難い、仕掛途中の状況でしたが、何かエキサイティングなことが起こりそうだと感じたそうです。

 バラネスク・カルテットは1987年にルーマニア生まれのアレクサンダー・バラネスクによって結成された英国の弦楽四重奏楽団で、クラフトワークの楽曲を取り上げたり、サンプリングを駆使したりと現代的な演奏で知られる人気カルテットです。

 バーンのアイデアは「ストリングスやオーケストラの暖かく、詩的で美しく、情緒的なサウンドと肉体的なグルーヴやビートを結合する」ことでした。それを「私は人々に踊って泣いて欲しいんだ」というこの人ならではの言い方で表現しています。

 その意図の通り、本作品は前作とはうって変わって、ほぼ全編にわたりストリングスが活躍しています。その柔らかな響きとグルーヴ感あふれるビートが融合しており、バーンの狙い通りのサウンドが展開しています。ただ、泣くかなあ、とは思いますが。

 プロデューサーに指名されたのは、米国の音楽プロデューサーのマイケル・マンジーニです。ドリームシアターのドラマーとは違いますので念のため。バーンは彼の仕事がグルーヴ指向で、エレクトロニクスと生楽器をミックスすることに長けていることが気に入ったそうです。

 バーンは作成したデモを聴いてもらう際に、「スティーヴィー・ワンダー、ビョーク、アイザック・ヘイズ、カエターノ・ヴェローゾ、トリッキー、ラムチョップ、セルジュ・ゲーンズブール、ロス・ファブロソス・カディラクス」の曲を編集したCDを一緒に渡したそうです。

 デモをどういう方向に持っていきたいかというヒントを与える試みだったとのことで、アルバムを聴く際にも何となくヒントになるお話です。バーンの創作の秘密の一端を垣間見るようで何とも興味深いです。実に幅広く音楽の世界に目を配っていることも分かります。

 このデモを元にまずはリズム・セクションを中心としたベーシックなトラックを制作すると、曲ごとにさまざまなアレンジャーを起用してアレンジした部分を別々に録っていきます。中にはベーシックなトラックなしの曲もあり、ベーシック・トラックだけで完成とした曲もあったようです。

 ウィンドウズXPのサンプル曲に選ばれた「ライク・ヒューマンズ・ドゥ」と「ネイバーフッド」はフィリー・ソウルの立役者トム・ベルがアレンジを担当していますし、トム・ウェイツとの仕事で知られるグレッグ・コーエンなども2曲でアレンジを行っています。

 結果的に時間的にも空間的にも大そう幅広い視野をもった作品になっていますし、目論み通り、柔らかいサウンドと生々しいビートが融合した極上のポップスになっています。やはりデヴィッド・バーンは米国のポピュラー音楽にルネッサンスをもたらした人物です。

Look Into The Eyeball / David Byrne (2001 Virgin)



Songs:
01. U.B. Jesus
02. The Revolution
03. The Great Intoxication
04. Like Humans Do
05. Broken Things
06. The Accident
07. Desconocido Soy
08. Neighborhood
09. Smile
10. The Moment Of Conception
11. Walk On Water
12. Everyone's In Love With You

Personnel:
David Byrne : vocal, guitar, keyboards, mellotoron, tympani
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Nrü (Rubén Isaac Albarrán Ortega) : vocal
Paul Frazier : bass
Bradley Jones : bass, baby bass
Ken Lewis : bass, keyboards
Greg Cohen : upright bass
Shawn Pelton : drums, percussion
Vinicius Cantuaria, Paulo Braga, Mauro Refosco : percussion
John Vercesi, Thom Bell : Rhodes
Sandra Park, Sharon Yamada, Laura Seaton, Fiona Simon, Lisa Kim, Bruno Eicher, Dan Reed Suzanne Ornstein, Kristina Mosso, Rajnhidur Pejursdottir, Maxim Moston : violin
Eileen Moon, Tara Chambers, Alan Stepansky, Sarah Seiver : cello
Michael Davis, Herb Besson, Robert Funk, Birch Johnson : trombone
Bob Carlisle, Stewart Rose : French horn
Shelley Woodworth : English horn
Nick Cords, Dawn Hannay, Vivek Kamath, Susan Pray, Robert Rinehart : viola
Roger Rosenberg : baritone sax
Karen Griffen : piccolo
Marlon Saunders : chorus
Larry Etkin, Tony Kadleck, Jim Hayes : trumpet, flugal horn
Virgil Blackwell : clarinet
Judy Leclair, Arlen Fast : bassoon
Imani Coppola : chorus