リミックス・アルバムなるものが発表されるようになったのはいつ頃からでしょうか。よく見かけるようになったのは言うまでもなくコンピューターが発達してからの出来事です。ゴドレイ&クレームの本作品「ヒストリー・ミックスVol1」などはかなり早い方ではないでしょうか。

 この作品に大きく係わっているのは元バグルスでZTTレコードを起こしたプロデューサー、トレバー・ホーンと、彼のプロデュースでアルバムを発表していたアート・オブ・ノイズのJJジェクザリックの二人です。まさにリミックスの元祖ともいうべき二人です。

 ゴドレイ&クレームとトレバーの出会いは、二人がニューヨークでザ・ポリスの「シンクロニシティー」コンサートを編集していた頃のことです。トレバーはその頃フォリナーと仕事をしており、スタジオの空き時間には二人が遊びにいって曲を録音したりもしたそうです。

 イギリスの二人のスタジオにトレバーもやってきて、ニューヨークで試した曲を完成させるべく試みましたが、うまくいきませんでした。テレビのチャンネルをザッピングすることを題材にした曲でしたが、英国ではチャンネル数が少なかったのが敗因です。

 そんな時に、ロル・クレームが口ずさんだのが、長年にわたり完成できなかったオープニング・ヴァースでした。それだと閃いたトレバーがアドバイスして出来上がったのが大ヒットした「クライ」です。彼らとしては唯一の全米トップ40ヒットです。

 「クライ」は何よりもそのMVが話題になりました。画面に大写しにされた歌っている顔が、次々にいろんな人に変化していきます。もちろんケヴィン・ゴドレイとクレームの顔もあります。モーフィングの技術で、今では当たり前ですけれども、この頃は衝撃的でした。

 このMVに先導されるようにヒットした「クライ」ですけれども、ゴドレイ&クレームにしてはとても落ち着いていてしみじみとした曲で、確かに名曲です。生まれながらのプロデューサー気質のトレバーの目というか耳は確かなものがあります。二人も溜飲を下げたことでしょう。

 ゴドレイ&クレームには、当時、レーベルにもう一枚アルバムを制作する契約が残っていました。そこで本作品が登場します。過去の音源をJJジェクザリックに委ねて、二人はアドバイスに徹します。そうして出来上がったのが2曲のリミックス音源です。

 そこにはゴドレイ&クレームの音源のみならず10ccやその前身のバンドの音源までがリミックスされています。21世紀のリミックスに比べるとまだまだプリミティブですが、当時としてはなかなか面白い取組でした。この二人ならいかにもやりそうなことに思いました。

 当初は「クライ」にその2曲を加えたアルバムでしたが、海外向けにシングル曲を加えたバージョンなどが生まれました。手元にあるのは「プラス・ヴァージョン」とされているもので、「クライ」のシングル・エディットなどが含まれます。この形態も新鮮でした。

 過去音源リミックスには「人生は野菜スープ」や「ラバー・ブリッツ」、「アイム・ノット・イン・ラヴ」などの名曲がそれと分かるように使われていたりして、その遊び心を共に楽しめる作品になっています。いかにもゴドレイ&クレームらしい作品だなあと感嘆したものです。

The History Mix Volume 1 / Godley and Crème (1985 Mercury)



Songs:
01. Wet Rubber Soup
02. Cry
03. Expanding The Business / The "Dare You" Man / Hum Drum Boys In Paris / Mountain Tension
04. Cry (single edit)
05. Love Bombs
06. Snack Attack
07. Wet Rubber Soup (edit)
08. Golden Boy (remix)
09. Light Me Up
10. Golden Boy (12" mix)

Personnel:
Kevin Godley
Lol Crème
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Nigel Gray, J.J. Jeczalik, Eric Stewart, Graham Gouldman, Trevor Horn