10ccの再結成についてはよく尋ねられるのに、ゴドレイ&クレームの再結成については誰も聞かない、と不満を口にするゴドレイ&クレームの4枚目のアルバム「イズミズム」です。この作品は彼らのアルバムの中では最も商業的に成功しました。

 もともとスタジオの虫であるケヴィン・ゴドレイとロル・クレームの二人です。いよいよレザーヘッドにあるクレームの自宅にスタジオを設けることができました。もはや使いたい放題ですから、彼らはますます意気軒高になったことと思います。

 もちろん新たな機材も導入しています。その最たるものはリン・ドラムです。このドラム・マシーンによって、クレームは夜中でも構わず漏れてくるケヴィンのドラムの音から解放されました。一方で、ケヴィンにとってもリン・ドラムの導入は大いなる救いになったようです。

 と言いますのも、この頃のケヴィンは椎間板ヘルニアに悩まされており、鍼灸治療を受けていました。酷い時には起き上がることすら辛く、食事すらまともに採れなかったということですから、ドラムキットからの解放はまさに福音だったことでしょう。

 他にも新たなシンセサイザーなどが導入されています。ケヴィンによれば、「この頃自分たちがやっていたことは、テクノロジーとの格闘だった」ということです。「そのほとんどがどうしようもない間違いだったけれども、自分たち流にいえば全く正しかった」とは彼ららしいです。

 この頃、彼らはビデオ業界では大スターになっていましたが、その斬新なスタイルはまさにこういうことなのでしょう。開発する側からすれば想定もしていない使い方で音楽を作り、映像を作っている。そこにこそゴドレイ&クレームの真骨頂があります。

 アルバムは当時まだ発明されていなかったラップで幕を開けます。ケヴィンがヘルニアの調子が悪くてスタジオで横になったまま、思うに任せない食事のことを歌詞にしたとのことです。7分に及ぶラップというか大演説による「スナック・アタック」です。

 この曲は米国ではアルバム・タイトルになりました。地味なオリジナル・ジャケットは、ハンバーガーが少女を襲うイラストに置き換えられています。何とも彼らの音楽とはミスマッチな感じがしますが、米国ではこのデュオはさんざんですからしょうがありません。

 アルバムからのシングル「アンダー・ユア・サム」と「ウェディング・ベル」は英国ではトップ10入りするヒットになりました。後者について、クレームはどこかで聴いたようなサウンドでも気持ち良ければ気にしないと語っています。どうせ同じになることなどありませんしね。

 「スナック・アタック」の他にもラップが多用されています。そこが本作品の最大の特徴かもしれません。その分、リズムの冒険がさまざまに行われており、アルバム全体をわくわくするものにしています。やり過ぎと批判する向きもありますが、全くそんなことはありません。

 アルバムは英国ではトップ30入りするヒットになりました。そのためにトップ・オブ・ザ・ポップスにも出演することになり、久しぶりに音楽でスター気分を味わったようです。成功はいつもいいもんだとケヴィンは嬉しそうに語っています。本当によかったですね。

Ismism / Godley & Crème (1981 Mercury)



Songs:
01. Snack Attack
02. Under Your Thumb
03. Joey's Camel
04. The Problem
05. Ready For Ralph
06. Wedding Bells
07. Lonnie
08. Sale Of The Century
09. The Party

Personnel:
Kevin Godley : vocal, drums, percussion, drum machine
Lol Crème : vocal, bass, guitar, keyboards, synthesizer
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Bimbo Acock : sax