ジャケットは欧米でよく見かける仮免練習中のサインです。初心に戻ってやり直そうというゴドレイ&クレームの意気込みがジャケットになり、同時にアルバム・タイトルにもなりました。その名も「L」、そのまんまです。大変に潔い行いです。

 前作「ギズモ・ファンタジア」で「ある意味では解放された」ケヴィン・ゴドレイとロル・クレームの二人は原点に立ち返って本作品に取り組みました。3枚組超大作で賛否両論を巻き起こした後はいわば怖いものなしです。何をやろうともそれに比べれば...となります。

 本作品はほぼ二人で制作されています。10ccとして自分たちで作ったストロベリー・スタジオ・サウスを使うのが憚られた二人は、ある日同じサレー州のサレー・サウンド・スタジオを見つけます。オーナーはナイジェル・グレイという医者で趣味が録音という変わった人です。

 そこの雰囲気が初代ストロベリー・スタジオに似ているということで、自身の原点に立ち返るにはもってこいの場所になりました。なお、スタジオは単なる趣味かと思うと、ザ・ポリスもそこを使っていたそうで、なかなかに本格的な趣味ではありました。

 ゴドレイ&クレームがいつものように長い時間をかけてオーバーダブやら何やらを加えて曲を作っていると、グレイがポリスの曲を彼らに聴かせたのだそうです。当時のポリスはほんの2日間くらいで曲を仕上げていたらしく、二人には大きな刺激になったようです。

 前作「ギズモ・ファンタジア」はある種特別のアルバムでしたから、いわば本作品が10cc後のゴドレイ&クレームの真価を世に問う初めてのアルバムです。当然に10ccのアルバムと比べられることになります。本人たちもそれを十分に意識していたことでしょう。

 クレームによれば、10cc時代には彼が普通でないギターを弾いて曲をつくると、グレアム・グールドマンが分かりやすいコードに直してくれたそうですが、ケヴィンにそんなことができるわけもなく、ポップ・フィルターをかけることはできなくなりました。

 そうなると、まるで「フリー・ジャズの気分」になりますし、「『L』は新しい汚いサウンドを見つけようと石をひっくり返すこと」ですし、「『L』は完全に即興だ」ということにもなります。ポップな側面は時おり顔を出すのですが、全体に自由な気配が漂っています。

 そんな中、しばしば言及されるのはフランク・ザッパ先生の影響です。言われてみれば「オーバーナイト・センセーション」の頃の先生に雰囲気が似ていなくもありません。本作収録の「アート・スクール・キャンティーン」には先生の名前が言及されていもいますし。

 しかし、ことさらにサウンドの実験を行おうとするデュオの姿勢は先生とはずいぶん異なるようにも思います。ベーシックなトラックを前に舌なめずりしながら、どう料理しようか手ぐすねを引いているような風情です。そこが鼻につく人にはつくのでしょう。私は好きですが。

 商業的にはさほど成功はしませんでしたけれども、息長く人気を保つするめアルバムになっています。実験的ではありながら、そこまで冒険的ではなく、不思議なポップさも顔を出したサウンドで、さにそれが彼らの原点だったのだと納得させられるアルバムです。
 
L / Godley and Crème (1978 Mercury)



Songs:
01. The Sporting Life
02. Sandwiches Of You
03. Art School Canteen
04. Group Life
05. Punchbag
06. Foreign Accents
07. Hit Factory / Business Is Business

Personnel:
Kevin Godley : vocal, drums, percussion, clavinet, bass
Lol Crème : vocal, piano, guitar, bass, organ, gizmo, clavinet, drums
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Andy Mackay : sax
Paul Gambaccini : sax