10ccはとうとう四人組からエリック・スチュワートとグレアム・グールドマンの二人組になってしまいました。当時、10ccが5ccになっちゃったと盛んに言われたものです。文字にするとこの上なく親父ギャグっぽくてとことん間抜けに響きます。

 「愛ゆえに」と本作からのシングル・ヒット曲の曲名を邦題にした新生10cc初のアルバムです。制作を始めた頃はまだ四人組でしたが、制作途中でゴドレイ&クレームの音響組が抜けてしまったという事情だそうです。何曲かは四人バージョンも存在していそうです。

 分裂を決定的にしたのは3枚目のシングル・カット曲「恋人たちのこと」なんだそうです。もともとは四人組時代に音響組が奇矯なアレンジを施して完成していました。「アイム・ノット・イン・ラヴ」のような話ですが、エリックとグレアムはこれをお蔵入りにしてしまいます。

 そうして、ストリングスを加えて甘い甘いラヴ・ソングにしてしまいました。歌詞は10ccらしく皮肉がきいているのですが、ともかくサウンドが甘い。これを追求したいとする二人とゴドレイ&クレームが分裂するのは時間の問題だったのだなと納得してしまいます。

 本作品はツアーに参加していたドラムのポール・バージェスを正式に迎えていて、実は三人組になっていました。ポールのドラム以外はほとんどがエリックとグレアムによる楽器演奏です。曲作りも二人、プロデュースも二人です。エリックはエンジニアとしても一流ですし。

 別れた直後は気合が入るものなのでしょう、このアルバムは全体にとても上質なポップ・アルバムになっています。アレンジは緻密ですし、音楽的にはとても高度なことをやっているということですが、これまでと違うのは、とても安心して聴けることです。

 ラテン音楽を取り入れたり、ウェディング・マーチが出てきたり、10分を越える三部からなる組曲が出てきたりと、10ccらしさは全開なのですが、ヒット・チャートを賑わすポップ・アルバムとして真っ向から正統派な作品です。日本でも幅広く受け入れられるようになりました。

 とりわけ邦題ともなった「愛ゆえに」は「アイム・ノット・イン・ラヴ」と並ぶ10ccの大ヒット曲です。これまた皮肉な歌詞を絶妙の節回しで歌ったこの曲は英米でトップ10入りするヒットになりました。カラオケ映えする曲なので、私もよく歌ったものです。名曲でしょう。

 もう一曲のシングル・ヒットは「グッド・モーニング・ジャッジ」です。英国で大ヒットしたものの米国ではさっぱりだったことからも分かる通り、これは四人組時代の10ccらしい曲です。私は真ん中へんではケヴィンが歌っているのかと思ってしまいました。

 この作品で、エリック&グレアムはゴドレイ&クレームがいなくてもヒット・アルバムを作れることをしっかりと証明しました。アルバムは全英3位、全米31位のヒットとなっており、同時期に発表されたゴドレイ&クレームの「ギズモ・ファンタジア」とは対照的でした。

 これまで着実にスターへの道を歩んできた10ccです。その道を途中下車するなんて信じられないとするエリック&グレアムに対し、その道に固執することが創造の妨げになるとみたゴドレイ&クレーム。どちらの言い分にも一理あります。興味深い対決が続きます。

*2012年3月2日の記事を書き直しました。

Deceptive Bends / 10cc (1977 Mercury)



Songs:
01. Good Morning Judge
02. The Things We Do For Love 愛ゆえに
03. Marriage Bureau Rendezvous
04. People In Love 恋人たちのこと
05. Modern Man Blues
06. Honeymoon With B Troop
07. I Bought A Flat Guitar Tutor
08. You've Got A Cold
09. Feel The Benefit:
a) Reminisce And Speculate 回想と空想
b) "A" Latin Break
c) Feel The Benefit
(bonus)
10. Hot To Trot
11. Don't Squeeze Me Like Toothpaste
12. I'm So Laid Bck, I'm Laid Out

Personnel:
Graham Gouldman : bass, guitar, organ, percussion, autoharp, vocal
Eric Stewart : vocal, guitar, piano, organ, synthesizer, percussion
Paul Burgess : drums, percussion, piano, vibes
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Tony Spath : piano, oboe
Jean Roussel : piano, organ
Del Newman : strings conductor