トーキング・ヘッズは「ネイキッド」以降、ほぼ解散状態にありましたが、正式に解散が発表されたのは1991年のことです。最後の仕事として、同年にヴィム・ヴェンダースの映画のために集結して「サックス・アンド・ヴァイオリンズ」を録音しています。

 本作品は正式にヘッズが解散してから初めてとなるデヴィッド・バーンのソロ・アルバムです。タイトルは「ウー・オー」、「レイ・モモ」と同じくバーンのワールド・ミュージックのためのレーベル、ルアカ・バップから1992年に発表されました。

 本作品のプロデューサーにはニック・ローネイが起用されました。これはまた意外な人選です。ローネイはパブリック・イメージ・リミティッドの「フラワーズ・オブ・ロマンス」の共同プロデュースで一躍時の人になった英国のプロデューサーです。

 そもそもセルフ・プロデュースでないことも意外でしたけれども、ワールド・ミュージックにまるで関係がなさそうな人物を選んだことも意外でした。もっとも前作もスティーヴ・リリーホワイトがプロデューサーに名前を連ねていましたから、そういうものなのかもしれませんが。

 本作品は「レイ・モモ」とは異なり、バンド・サウンドになっています。前作は数多くのミュージシャンが参加しており、さまざまなスタイルごとに組み合わせを変えて各楽曲が演奏されており、「ほとんどレーベルのサンプラーのようだった」とはバーンの弁です。

 それに対し、本作品では多くのゲストは参加しているものの、中心となる小数のメンバーはアルバムを通してほぼ一定です。その中でバーンの相棒としてミュージカル・ディレクターを務めているのはエンジェル・フェルナンデスです。

 フェルナンデスは1980年代を通してサルサの巨人レイ・バレットとツアーを共にしてきた人で、1989年からバーンと組んで仕事をしています。1993年にはマーク・アンソニーのバンドに入りますが、その他にもさまざまな仕事をしています。

 フェルナンデスやパーカッションのトム・ゼー、ドラムのオスカー・サラスなどはラテンないしはカリブ・オリジンの人達ですが、ベースのジョージ・ポーターはミーターズのメンバーですからファンクな米国人です。必ずしもラテンで固めているわけではなさそうです。

 前作があまりに正統派ラテン音楽の演奏を使っていたことでラテン音楽愛好家からは顰蹙をかった模様です。それもあってのことでしょう、本作品ではストレートなラテン音楽スタイルではなく、バーン自らの音楽にラテンの要素を取り込んだスタイルになっています。

 言ってみれば、よりトーキング・ヘッズのスタイルに近いわけで、耳に馴染むサウンドになっています。同時に、ヘッズでは出来ない音楽なので、解散にも納得せざるを得ません。やや捉えどころが難しいのですが、とにかく充実のサウンドに唸らされます。

 歌詞はいきなり性転換から始まるなど、鋭く世相をえぐるいつものバーンです。アルバムは全米100位にも入っていません。ワールド・ミュージックはやはり売上には直結しないようです。しかし、もはやバーンはそんなことを気にしないでいられる位置にいるのでした。

Uh-Oh / David Byrne (1992 Luaka Bop)



Songs:
01. Now I'm Your Mom
02. Girls On My Mind
03. Something Ain't Right
04. She's Mad
05. Hanging Upside Down
06. A Walk In The Dark
07. Twistin' In The Wind
08. The Cowboy Mambo (Hey Lookit Me Now)
09. Monkey Man
10. A Million Miles Away
11. Tiny Town
12. Somebody

Personnel:
David Byrne : vocal, guitar, effects, whistle
***
George Porter, Jr. : bass
Angel Fernandez : trumpet, flugelhorn, conductor
Milton Cardona : bata
Café : percussion
Ronnie Cuber : bass clarinet
Hector Rosado : percussion
Oscar Salas : drums, percussion
Steve Sacks : flute, clarinet, alto sax
Fred Griffen, John Clark : French horn
Melanie Feld : oboe
Dick Oatts : alto sax
Ronnie Cuber : baritone sax
Ken Hitchcock, Lawrence Feldman : tenor sax
Ashley Cadell : synthesizer, clavinet, vibraphone
Christopher Washburne, Gerald Chamerlain : trombone
Ite Jerez, Charlie Sepulveda, Joe Shepley : trumpet
Nona Hendrix, Dolette McDonald, Billy Cliff, John James, Joyce L. Bowden, Nicky Holland : chorus