「虎がいなければ猿が王様」という中国のことわざがブックレットに印刷されています。「鳥なき里の蝙蝠」と同じ意味です。してみると、ジャケットの猿は王様ということになりますかね。意味深なような、単なる気まぐれのような。トーキング・ヘッズはいつも一味違う人たちです。

 前2作がアメリカンだったのに対し、今回はまたまたアフリカンが復活しています。ただし、「リメイン・イン・ライト」がアフロ・ビートだとしたら、こちらはリンガラやハイライフ、はたまた北アフリカのライに近いです。よりディープにアフリカ大陸に迫りました。

 アフリカは音楽大陸ですから、一口にアフリカンと言っても、それこそ大変豊饒な世界が展開しています。アフロ・ビートだけがアフリカだと思ったら大間違いです。ここでヘッズが志向しているような軽やかなサウンドも立派なアフリカ代表です。

 この作品の制作過程は「リメイン・イン・ライト」に近いです。まずはメンバー4人がニューヨークでセッションを繰り広げて、40個ほどのグルーヴを生み出しました。セッション時には、担当楽器も交換したりして、何よりも自由が尊重されたようです。

 その後、メンバーはパリに飛び、そこで、件のグルーヴを元に、さまざまなミュージシャンとセッションを行っています。曲ごとに7、8人のミュージシャンがリハーサルと本番を繰り返し、一日一曲ずつ録られたそうです。きっちり働くバンドです。

 参加ミュージシャンはアフリカ系のミュージシャンが多いです。ティナによれば、もともとアメリカのパーカッショニストはラテン・オリジンの人が多く、アフリカンな音が欲しいと言っても、なかなかイメージ通りにならないことがパリ行の理由の一つだということです。

 しかし、数多いミュージシャンの中には英国の国民的バンド、ザ・スミスのジョニー・マーの名前も見られますから気が抜けません。ジョニーはまるでアフリカンなギターを披露しています。ジョニーらしいと言えばらしいのですが、ちょっと意外な気もします。

 さて、そうして録音されたトラックに、今度はデヴィッド・バーンがメロディーと歌詞を付けていって、最終的に完成することとなります。プロデューサーは久しぶりに外部から招いており、ここではスティーヴ・リリーホワイトが起用されています。

 このアルバムを最後に彼らはデヴィッド色が強くなりすぎたとして、休養に入り、結果的に解散してしまいます。アルバム制作過程の前半部分を見ると、とても仲の良いバンドのそれですが、確かに後半はデヴィッド一人が目立っています。何だかなあという気がします。

 しかし、これは力作です。「リメイン・イン・ライト」とその後のアメリカンな作品を、うまく弁証法的に止揚した作品です。リズムの探求は続いている一方で、フォーキーな味わいもありますし、もう一つのアフリカの豊かな世界も垣間見ることが出来ます。

 デヴィッド・バーンのソロ作品に自然に連なっていくサウンドになっているのかなと思います。ワールド・ミュージックへの接近の仕方がとても自然です。ポップでいて、実験的なサウンドもあり、さらに世界の旅さえさせてくれる豊かな作品です。

*2014年10月27日の記事を書き直しました。

Naked / Talking Heads (1988 Sire)



Songs:
01. Blind
02. Mr. Jones
03. Totally Nude
04. Ruby Dear
05. (Nothing But) Flowers
06. The Democratic Circus
07. The Facts Of Life
08. Mommy Daddy You And I
09. Big Daddy
10. Bill
11. Cool Water
(bonus)
12. Sax And Violins

Personnel:
David Byrne : vocal, guitar, keyboards
Chris Frantz : drums, percussion
Jerry Harrison : piano, keyboards, guitar, tambourine, chorus
Tina Weymouth : bass, keyboards, organ, chorus
***
Johnny Marr, Yves N'Djock : guitar
Brice Wassy, Abdou M'Boup, Moussa Cissokao, Nino Gioia : percussion
Manolo Badrena, Sydney Thiam : percussion, congas
Eric Weissberg : pedal steel guitar
Mory Kanté : kora
Wally Badarou : keyboard
Lenny Pickett, Steve Elson : sax
Robin Eubanks : trombone
Laurie Frink, Earl Gardner, Steve Gluzband, Jose Jerez, Charlie Sepulveda : trumpet
Stan Harrison, Bobby Porcelli : alto sax
Al Acosta : tenor sax
Steve Sachs : baritone sax
Dale Turk : bass trombone
Arthur Russell : cello
Philippe Servain, James Fearnley : accordion
Phil Bodner : cor anglais
Don Brooks : harmonica
Kirsty MacColl : chorus
Alex Haas : whistling