ついにデヴィッド・バーンは映画を作ってしまいました。もともとアートな人たちですし、ジャケットはもとよりMVの出来栄えにはいたく定評がありましたから自然と言えば自然です。それに何よりも評判の高かった見事なライブ映画がありました。

 映画の邦題は「デヴィッド・バーンのトゥルー・ストーリー」でしたが、何だか妙な映画でした。カウボーイ姿のデヴィッドが架空の街「ヴァージル」を舞台に、アメリカのちょっと変な実話をスケッチ風に紹介していくというストーリーです。

 街のあり方や人々のそれぞれのエピソードが現代アメリカを鋭く描きだします。日本人の考えるステレオタイプなアメリカの姿からは程遠いです。フランク・ザッパ先生のアメリカ描写と通じるものがあります。外国からはその国の普通の姿というのは分かりにくいものです。

 そして、このアルバムはその映画のサントラであってサントラでないという不思議な位置づけにあります。というのも、映画の中では登場する俳優さんたちが歌っているのに対し、この作品ではデヴィッド・バーンがボーカルをとっているからです。

 デヴィッドは映画のヴァージョンを出したかったそうですが、なぜかこういう姿になっています。いろいろな大人の事情があったんでしょうね。今私の手元にあるものはリマスター盤で、ボーナス・トラックとして俳優さんが歌うバージョンが二曲入っています。

 正直に言いますと、俳優さんが歌っている方が私は好きです。デヴィッドももともとは俳優さんが歌うために作曲していますから、いつものデヴィッド節に比べるとエキセントリックなところが少ないです。本人が歌うんだったらもう少し違うメロディーになっているように思います。

 サウンドは前作の延長にありますが、ディープなアメリカ紀行の色彩がますます強くなりました。前作でも活躍したペダル・スティール・ギターに加えて、アコーディオンやフィドルなどが色彩豊かにアメリカを語っています。深南部の雰囲気まであります。

 リズムは奇矯なものではなくなっていて、ティナとクリスの活躍はそこそこに留まっている印象があります。俳優さんが歌うことがみんなの念頭にあったのだと思えば納得できます。しっかりと映画のために音楽作るということで意思統一が図られていたのでしょう。

 この作品からは彼らの最大のヒット・シングル「ワイルド・ワイルド・ライフ」が誕生しています。MTVでビデオ・アウォードを受賞したMVが評判となって、トップ10ヒットを記録しました。田舎町のパーティーらしい雰囲気がたまりません。

 映画を象徴するのは「ピープル・ライク・アス」でしょう。自分たちのような人間には、♪自由も正義も要らない。愛する人が欲しいだけ♪。デヴィッドの普通の人に対する目線は当初から一貫しています。愛に満ちた眼差しで社会学的、分析的に見守っています。

 トーキング・ヘッズの音楽はインテリっぽいだのなんだの言われますが、街の中に深く深く入り込んでいて比類ありません。深く入り込み過ぎているので、よその国から見ると、理解したと得心しにくいところがあって、そこもまた魅力です。

*2014年10月25日の記事を書き直しました。

True Stories / Talking Heads (1986 Sire)



Songs:
01. Love For Sale
02. Puzzlin' Evidence
03. Hey Now
04. Papa Legba
05. Wild Wild Life
06. Radio Head
07. Dream Operator
08. People Like Us
09. City Of Dreams
(bonus)
10. Wild Wild Life (extended mix)
11. Papa Legba (Pope Staples vocal version)
12. Radio Head (The Larriya vocal version)

Personnel:
David Byrne : guitar, vocal
Chris Frantz : drums
Jerry Harrison : keyboards, guitar, chorus
Tina Weymouth : bass, chorus
***
Tommy Camfield : fiddle
Paulinho Da Costa : percussion
Steve Jordan : accordion
Tommy Morrell : peadl steel guitar
Gloria Loring : chorus
Bert Cross Choir
St. Thomas Aquinas Elementary School Choir