10ccのセカンド・アルバム「シート・ミュージック」です。デビュー作がそこそこのヒットを記録したことからバンドを続ける自信がついたのでしょうか、実は宙ぶらりんだったバンド名10ccを使い続けると決心してから制作したのが本作品です。

 本作品は地味ですけれども、10ccの最高傑作にあげる人も多い、とても充実したアルバムです。メンバーのケヴィン・ゴドレイもグレアム・グールドマンも本作品への思いを語っていますし、ロル・クレームとエリック・スチュワートにしても同様の思いだと推測します。

 ご存じの通り、10ccの四人はそれぞれがマルチ楽器奏者ですし、曲作りもすれば歌も歌います。常識外れの才人揃いのバンドであるといえます。しかも明確なリーダーはおらず、四人の才能に濃淡もさほどありません。何だか驚異のバンドですね。

 四人から二人を選ぶ組み合わせの数は4の階乗/2の階乗で6通りあります。大変面白いことに、このアルバムの収録曲全10曲はその6通りの組み合わせをすべて使って作曲されています。まさに四人が一丸となって作ったアルバムであるといえます。

 四人ともリード・ボーカルをとっていますし、複数の楽器を演奏しています。その楽器の中にはケヴィンとロルが特許を取得する新しい楽器というかアタッチメント、ギズモが登場します。アルバムとしては本作品が初登場で、ここではエリックも演奏しています。

 こうした体制で制作された本作品は、全曲が何だか普通ではありません。耳を逆なでする不協和音の洪水がほとばしるわけでもありませんし、各楽曲のメロディーはとても美しいですし、「ハリウッドのどこかで」が7分近くある他は全曲が3分前後と短いにもかかわらずです。

 恐らく普通のアレンジを施せば何の変哲もない普通にポップなアルバムになっていたことでしょう。しかし、そこが10ccです。どの楽曲をとっても創意工夫にあふれたアレンジが施されており、聴けば聴くほどミクロな部分に大胆な冒険が行われていることが分かります。

 それでいて通常のポップ・ミュージックのフォーマットを崩していません。大衆から遊離することなど一切なく、普通に楽しいポップ・アルバムとしても楽しめ、なおかつ徹底的に聴き込むこともできる作品となっているんです。それこそが10ccの真骨頂です。

 当時はシンセサイザーが使われ始めたくらいで、コンピューターによる編集などできない時代です。その時代にほんの短期間でスタジオ技術を駆使してここまで凝ったサウンドを構築する。恐ろしいことです。プロデュースはバンド、エンジニアとミキサーはエリック!

 制作期間も短く、いかに四人の若者が創意に満ちていたかということがよく分かります。同じスタジオでポール・マッカートニーがレコーディングしていたそうで、ポールからの影響も感じます。ポールも意地でも普通の曲では終わらせないぞという精神の持ち主ですね。

 本作品は「ウォール・ストリート・シャッフル」と「シリー・ラヴ」のヒット・シングルが取りざたされますが、全曲外れなしです。一生懸命に聴けば聴くほど空いた口が塞がらなくなります。10ccが最も充実していた時期の傑作に間違いはありません。

Sheet Music / 10cc (1974 UK)



Songs:
01. The Wall Street Shuffle
02. The Worst Band In The World とってもイカしたイモ・バンド
03. Hotel
04. Old Wild Men
05. Clockwork Creep 時計じかけのクリープ
06. Silly Love
07. Somewhere In Hollywood ハリウッドのどこかで
08. Baron Samedi サメディ男爵
09. The Sacro-Iliac 踊ろうサクロイリアクを
10. Oh Effendi

Personnel:
Eric Stewart : vocal, piano, guitar, mellotron, organ, gizmo, marimba
Lol Crème : guitar, vocal, piano, percussion, mellotron, synthesizer, gizmo
Graham Gouldman : bass, guitar, percussion, vocal, bouzouki
Kevin Godley : drums, percussion, vocal