ジャケットの絵はアウトサイド・アートないしナイーヴ・アートと呼ばれる画家ハワード・フィンスターの手になるものです。ハワードは1916年にアラバマに生まれていますから、この作品の時は70歳近い年齢でした。アメリカのアート・シーンの奥深さを感じます。

 ハワードはREMのセカンド・アルバムなども手掛けていて、こちらの作品ではローリング・ストーン誌のアルバム・カバー・オブ・ザ・イヤーを獲得しています。細かい書き込みが曼荼羅を思わせもしますが、デヴィッド・バーンのブリーフ姿が強烈です。意表をついています。

 スタジオ作品としては2年ぶりとなるトーキング・ヘッズの作品です。原点回帰といいますか、装いは一見シンプルになりました。アフリカンなリズムが前面に出てきていた近作とは異なって、アメリカ的でかつフォーキーな味わいとなっています。

 この作品を初めて聴いた時には驚いたものです。原点回帰らしいとは聞いていましたが、まさかここまで変化するとは思ってもみませんでした。聞けば作り方は前作や前々作と変わらず、ベーシック・トラックを先に録音する方式です。ますます驚きです。

 バンドの原点に返って4人だけで作ったと思われがちですけれども、実際には前作同様、数多くのゲスト・ミュージシャンが参加しています。いつものパーカッショニストのスティーヴ・スケイルズや元タワー・オブ・パワーのサキソフォン奏者レニー・ピケット。

 加えて目を惹くのはブラジル人パーカッショニストのナナ・ヴァスコンセロスと、ペダル・スティール・ギターのエリック・ワイスバーグでしょう。エリックは2曲のみの参加ですが、アルバムのアメリカ・ネイティヴな雰囲気を一身に体現しています。

 ヴァスコンセロスの方は、のちにバーンがワールド・ミュージックに傾倒することを予感させる起用です。ここでは「パーフェクト・ワールド」でウォーター・ドラムを演奏しています。瓢箪に水を入れる太鼓ですね。面白い音がなっています。

 サウンドは、シンプルに見えますが、メロディーもリズムも一筋縄ではいきません。ただし、初期の彼らのようにひねくれているわけではなくて、堂々とアメリカンなルーツに正面から向き合って、じっくりと仕上げた作品です。首尾一貫した歩みの結果です。

 カントリーのフレイバーもあり、とにかくアメリカ的な、あまりにアメリカ的な感触です。「ステイ・アップ・レイト」ではテンプテーションズからの引用も聴かれます。デヴィッドは幼少期にアメリカに移住したイギリス人ですから、余計にアメリカ的なルーツに敏感なのかもしれません。

 この作品は、トーキング・ヘッズの作品の中では最も商業的な成功を収めたアルバムとなっています。現代アメリカを上質なポップ・サウンドに乗せて描き出した作品として、特にアメリカ国内における人気が高かったものと思います。聴きやすいですし。

 流れるメロディーの「レディ・ドント・マインド」や「テレヴィジョン・マン」、それにPVがやたらと面白い「ロード・トゥ・ノーウェア」あたりが私のお薦めです。結局、ヘッズのアルバムの中でいつまでも友としているのはこのアルバムの頃なんですね。大好きな作品です。

*2014年10月23日の記事を書き直しました。

Little Creatures / Talking Heads (1985 Sire)



Songs:
01. And She Was
02. Give Me Back My Name
03. Creatures Of Love
04. The Lady Don't Mind
05. Perfect World
06. Stay Up Late
07. Walk It Down
08. Television Man
09 Road To Nowhere
(bonus)
10. Road To Nowhere (early version)
11. And She Was (early version)
12. Television Man (extended mix)

Personnel:
David Byrne : guitar, vocal
Chris Frantz : drums
Jerry Harrison : keyboards, guitar chorus
Tina Weymouth : bass, chorus
***
Andrew Cader : washboard
Jimmy Macdonell : accordion
Lenny Pickett : sax
Steve Scales : congas
Nana Vasconcelos : water drum
Eric Weiseberg : pedal steel guitar