高校の同級生が集まってバンドを結成し、地元のクラブで腕を磨いているところを見出され、はれてデビューする。そんなロック界のスタンダードからは最も遠いところにいるバンドがこの10ccです。これは全英1位シングルを含むそんな彼らのデビュー・アルバムです。

 本作品は1973年に発表されていますが、メンバーの4人はそれぞれが1960年代からプロとして音楽業界で活動していました。それも下積みなどという言葉では括れない活躍ぶりで、そもそも四人による前身バンドですらミリオン・セラーを達成しています。

 グレアム・グールドマンはホリーズの名曲「バスストップ」の作曲者ですし、エリック・スチュワート、ロル・クレーム、ケヴィン・ゴドレイの三人が在籍したマインドベンダーズは全米1位の大ヒット・シングルを発表しています。彼らのバンド前史はとても長いんです。

 しかし、これだけの実績があるにも係わらず、10ccがデビューした時に彼らがスーパー・バンドとしてもてはやされたという事実を寡聞にして知りません。この当時のロック界はバンド再編が珍しくなく、期待を担うスーパー・バンドが結構いたにも係わらずです。

 そのことが10ccの音楽界での立ち位置を示しているような気がします。圧倒的な音楽センスにも係わらず、今一つカリスマ性に欠ける四人が、いわゆる「本格派」ロックではなく、コミック・バンドと認識されるまでひねりにひねったポップスを演奏するバンド。

 10ccはシングル曲「ドナ」で1972年8月にシングル・デビューしています。ロルがファルセットで歌うドゥー・ワップ調のとぼけた名曲です。いかにもイギリス人らしく料理されたこの曲はいきなり全英2位のヒットを記録しています。さすがです。

 スーパー・バンドではない10ccはこのヒットでお試しに合格したのでしょう、翌年7月にようやく本アルバムが発表されました。そのひと月前には3枚目のシングル「ラバー・ブレッツ」が発表され、何と全英1位に輝いています。彼らにしては派手なデビューになりました。

 10ccは四人のメンバーがいずれもボーカルをとりますし、曲も作ります。それぞれがすでに確立した一流のミュージシャンであったがゆえに後に方向性の相違で分裂してしまうわけですが、ここはもちろん四人が一体となってアルバムの制作にあたっています。

 収録された全10曲はいずれも一筋縄ではいきません。たとえば、全英1位に輝いた「ラバー・ブレッツ」はロルとケヴィンによる軽快なリズムのポップな曲ですけれども、途中にはグレアムが加えた妙なパートが出てきます。捻らずにはいられないのでしょう。

 各楽曲は曲調もさまざまで、演奏も工夫に工夫を重ねられており、しかもそれを実現させるスタジオ技術が見事です。さすがはプロのスタジオ・ミュージシャンの集まりです。その職人気質はロック・スターとしてのカリスマ性にはつながりませんが、そこがまさに10ccです。

 とにかくデビュー・アルバムという言葉からは考えられない充実ぶりです。長い長いバンドの前史はだてではありません。やがて最も英国的なバンドと呼ばれ、英国ロック史に特異な位置を占める10ccは、デビュー時点ですでに実力を全開にしていました。

10cc / 10cc (1973 UK)



Songs:
01. Johnny, Don't Do It いけないジョニー
02. Sand In My Face
03. Donna
04. The Dean And I
05. Headline Husler
06. Speed Kills
07. Rubber Bullets
08. The Hospital Song
09. Ships Don't Disappear In The Night (Do They?) 舟は夜消えるかい?
10. Fresh Air For My Mama ママにフレッシュ・エア

Personnel:
Eric Stewart : guitar, synthesizer, vocal
Lol Crème : guitar, piano, siynthesizer, mellotron, percussion, vocal
Graham Gouldman : bass, guitar, tambourine, vocal
Kevin Godley : drums, percussion, vocal