アート・アンサンブル・オブ・シカゴのレスター・ボウイが結成したブラス・ファンタジーのセカンド・アルバム「アヴァン・ポップ」です。前作から1年、次作まで1年、コンスタントにアルバムを制作しています。ただし、本作品がECMでの最後の作品になりました。

 ブラス・ファンタジーはドラム一人と管楽器8人のノネットです。メンバーは前作と同じです。このグループでは通常のジャズを越えて、他のジャンルの楽曲を積極的に取り上げることで、先鋭化する前の大衆音楽としてのジャズの真髄を届けようとするものだといえます。

 まあそんな小難しいことを言わなくても、このグループのアヴァン・ポップな演奏を楽しめばよいということです。何といっても、猥雑な活力に満ちていて、ECMのレーベル・カラーからは少し逸脱した楽しいサウンドが次から次へと繰り出されるわけですから。

 こういう作品は反感もかうもので、本作品などはオール・ミュージックのサイトで酷評されています。しかし、その酷評の中でも唯一ハイライトだと認められている曲が冒頭の「ジ・エンペラー」です。これはカバーではなく、トロンボーンのスティーヴ・トゥーレのオリジナルです。

 10分を越える大作で、トランペット、トロンボーン、フレンチ・ホルン、チューバのそれぞれがじっくりと音を聴かせるショーケース的な楽曲です。ただ一人の打楽器奏者フィリップ・ウィルソンのスティックさばきも目立ちます。ノネット全員に見せ場があります。

 2曲目にはホイットニー・ヒューストンの「すべてをあなたに」です。本作品が発表された前年に世界中で大ヒットした名曲をブラス・ファンタジーは比較的オリジナルに忠実にカバーしています。ちょっと間違うとイージー・リスニングになってしまうぎりぎりのところでとどまります。

 続くのはこれぞ問題作といえるレスター・ボウイのオリジナル曲「Bファンク」です。題名からしてPファンクを思わせますが、曲を聴くとまるでそのまんまパーラメントです。軽めのドラムとどすこいチューバによるリズムはPとは感触が違いますが、管によるメロディーが...。

 続くカバーは「ブルーベリー・ヒル」です。1940年代のアメリカの楽曲ですが、有名なのはファッツ・ドミノのロックンロール・バージョンです。ここではゆったりしたリズムにのせて、オリジナルの1940年バージョンを思わせる小粋な演奏です。

 ウィリー・ネルソンが作曲してパッツィー・クラインがカバーしたカントリーの名曲「クレイジー」が続きます。およそジャズからは縁遠い楽曲ですけれども、ブラス・ファンタジーは楽しそうに演奏しています。ブラス・バンドが陽気なお葬式で行進しながら演奏しているかのようです。

 6曲目と7曲目はオリジナルです。トゥーレによる「マッチョ」はアフロ・キューバン・ジャズの始祖ともいえるマチートに捧げられた曲ですし、ボウイによる「ノー・シット」はスウィングする楽しい曲です。大衆音楽の歴史に目配りをしたオリジナルです。

 最後はデルズのドゥワップ「オー・ホワット・ア・ナイト」に乗せてメンバー紹介をしてアルバムは大団円を迎えます。とにかくアメリカの大衆音楽の歴史を俯瞰する選曲を圧倒的な大衆感覚で演奏するブラス・ファンタジーです。お酒でも飲みながら聴くのが正解でしょう。

Avant Pop / Lester Bowie Brass Fantasy (1986 ECM)



Songs:
01. The Emperor
02. Saving All My Love For You
03. B Funk
04. Blueberry Hill
05. Crazy
06. Macho (Dedicated To Machito)
07. No Shit
08. Oh, What A Night

Personnel:
Lester Bowie : trumpet
Stanton Davis : trumpet
Malachi Thompson : trumpet
Rasul Siddik : trumpet
Steve Turre : trombone
Frank Lacy : trombone
Vincent Chancey : French horn
Bob Stewart : tuba
Phillip Wilson : drums