トーキング・ヘッズのメンバーは名作「リメイン・イン・ライト」を制作した後、それぞれがソロ活動に勤しみました。ティナ・ウェイマスとクリス・フランツ夫婦のトム・トム・クラブとジェリー・ハリソンの場合は分かりやすいストレートなソロでしたが、デヴィッド・バーンは少し違いました。

 制作時期は相前後しますが、最初に世に出たのはブライアン・イーノとのコラボレーションでしたし、続いて発表された待望のソロは舞踊家トワイラ・サープとのコラボレーションとなる本作「キャサリン・ホイール(回転花火)」でした。普通のソロではないところがバーンらしいです。

 サープは前衛的な作風から出発し、ブロードウェイ・ミュージカル、さらには名だたるバレエ団の振付まで手掛けるアメリカ屈指の舞踊家・振付師です。本作品の頃は「プッシュ・カムズ・トゥ・ショヴ」が大成功をおさめ、振付師として地位と名誉を確固たるものとしていました。

 サープは本作品以前にビーチ・ボーイズの曲を使った作品「デュース・クーペ」を制作していましたし、ブルース・スプリングスティーンやスーパートランプなどの曲を使用するなどロックとは相性が良い人です。ただし、いずれも書下ろしではなく、既成の曲に振付たものでした。

 サープはブロードウェイでのサープ週間に向けて新作のために音楽を制作してくれるロック・ミュージシャンを探してフィルモアのビル・グラハムに推薦を依頼します。そこで白羽の矢が立ったのがデヴィッド・バーンでした。これが本作品誕生の背景です。

 制作過程は興味深いものです。まず、バーンがベーシックなリズム・トラックを作成してサープに提示し、それをもとに二人がそれぞれ音楽とダンスを創造していくというプロセスがとられています。異業種のコラボレーションながら二人はがっぷり四つに組んでいます。

 いくつかの曲はすでにある程度ダンスが出来上がっていて、バーンはそれに合わせてトラックを作成していますし、その逆のパターンもあります。そこにはまるでミシン目がありません。種がどちらにあったとしても、花は二人で育て上げる緊密なコラボレーションです。

 この時期、バーンの音楽的な興味は「リメイン・イン・ライト」にも顕著な通り、アフリカのリズムでした。とりわけ、音楽学者ジョン・ミラー・チェルノフによる1979年発表の「アフリカのリズムとアフリカのセンシビリティ」に大いに刺激を受けたそうです。

 チェルノフは自身で5年間ガーナに滞在し、そこで習得した複雑なリズムへの理解を鍵としてアフリカの人々の豊かな社会的文化的生活を活写しています。そのチェルノフが本作品にミュージシャンとして全面的に参加していることが特筆されます。

 この作品にはブライアン・イーノが参加していますから「マイ・ライフ・イン・ザ・ブッシュ・オブ・ゴースト」の続編的に扱われたりしますけれども、成り立ちから何から大きく異なります。バーニー・ウォーレルやジェリー・ハリソンも参加していますが、やはりチェルノフの存在が大きい。

 本作品のサウンドは彼の作品の中では最もアフリカ的です。いらちな曲風だったバーンがここではアフリカ的な大らかなリズムと、サープによる肉体を得て、生き生きと輝いています。サントラとして見逃されがちですが、理想的なコラボレーションによる最上のサウンドがここにあります。

参照:https://davidbyrne.com/explore/the-catherine-wheel/about

The Catherine Wheel / David Byrne (1981 Sire)



Songs:
01. Light Bath
02. His Wife Refused
03. Ade
04. Walking
05. Two Soldiers
06. Under The Mountain
07. Dinosaur
08. The Red House
09. Wheezing
10. Eggs In A Briar Patch
11. Poison
12. Cloud Chamber
13. Black Flag
14. My Big Hands (Fall Through The Cracks)
15. Combat
16. Leg Bells
17. The Blue Flame
18. Big Business
19. Dense Beasts
20. Five Golden Sections
21. What A Day That Was
22. Big Blue Plymouth (Eyes Wide Open)
23. Light Bath

Personnel:
David Byrne : synthesizer, bass, flute, guitar, piano, vocal, keyboards
***
Adrian Belew : guitar, steel drums, beats
John Chernoff : guitar, percussion, piano drums
John Cooksey : drums
Brian Eno : bass, guitar, piano, keyboards, chorus, vibraphone, synthesizer
Doug Gray : double bell euphonium
Sue Halloran : vocal
Jerry Harrison : organ, drums, clavinet
Richard Horowitz : ney
Yogi Horton : drums, concert toms
Dolette McDonald : vocal
Steve Scales : percussion
Bernie Worrell : synthesizer, piano, keyboards