「映像研には手を出すな」の実写版ドラマと映画のサウンドトラック・アルバムです。原作は大童澄瞳によるコミックで、累計部数100万部を越えるヒット作品です。なお、2020年1月から3月までNHKによってアニメ版が放送されており、そちらも大そうな評判を呼んでいます。

 実写版はアニメから間髪を入れずに制作され、まずは全6話のドラマとして2020年4月から放送されました。そのドラマから地続きで映画が制作され、当初は早くも5月に公開される予定でしたが、新型コロナの影響で延期され、結局9月に公開されています。

 アニメを制作する女子高生3人組の話といえば青春ドラマっぽいのですが、原作コミックはかなりマニアックな内容です。実写にするには勇気がいったことでしょうが、配役が良かった。乃木坂46の齋藤飛鳥、梅澤美波、山下美月の3人が素晴らしかったです。

 三人とも良かったのですが、特に齋藤飛鳥の浅草みどりっぷりは凄かった。齋藤自身の主演作としては「あの頃、君を追いかけた」以来ですが、今回の演技は本当に素晴らしい。齋藤飛鳥はもう浅草みどりとして生きていってよいのではないかと思いました。

 乃木坂で歌を歌っている斎藤や梅澤の姿にむしろ違和感を覚えるようになってしまいました。また、三人に対峙する生徒会の3人、グレイス・エマ、福本莉子、そしてとぼけた生徒会長の小西桜子も素晴らしかったです。若い役者さんのいきいきとした演技は本当にいいですね。

 マニアックな作品ですから、この配役やストーリーの消化の仕方などに、原作のファンの間には賛否両論あったことと思います。私は実写版ドラマと映画を先に見たので、そういう葛藤は全くありませんでした。むしろ程よく中和されていて楽しめました。

 サウンドトラックの作者は佐藤望、公式サイトによれば「昭和音楽大学作曲学科卒業。クラシカルな素養を生かしたポップな作品を得意とする。2010年にカメラ=万年筆、2018年にOrangeadeを結成 ポップス以外にもCM・映画など幅広く作曲活動をしている」人です。

 カメラ=万年筆とは奇異な名前ですけれども、古くはフランスのヌーヴェルバーグ映画に遡り、私の世代だとムーンライダースのアルバム名に行き着きます。佐藤のバンドはムーンライダースからとったそうです。これだけで佐藤がポップに造詣が深いことが分かります。

 さらに、佐藤はこのアルバムについて、「はっきり言って人生で一番キツかった仕事ですが、映画音楽に憧れて作曲の道に進んだので感動もひとしおです」と素直に語っています。何やらサウンドの傾向が見てとれるようなお話ばかりです。

 本作品はサウンドトラックの王道を堂々と歩んでいる作品だといえます。テーマともなっているタイトル・トラックは正面からロックですし、続く「芝浜高校生徒会1」は正面からクラシカルです。全23曲がどれもこれも気持ち良く真っ向勝負の楽曲ばかりです。

 本人は「テッポウガニ上陸」から「生徒会の噂」、「金森、帰還す」の流れが気に入っているとツイートしています。確かに怪獣登場から武満徹風の邦楽を経て不気味な行進曲への流れは面白いです。どの楽曲も映像に寄り添って実に見事です。胸がすーっとする作品です。

Keep Your Hands Off Eizouken (OST) / Nozomu Sato (2020 TOHO Animation)



Songs:
01. 映像研には手を出すな!
02. 芝浜高校生徒会1
03. 人見知り浅草
04. 映像研の日常1
05. ツバメ登場
06. 浅草覚醒
07. ロボ研の想い
08. 映像研の日常2
09. 逃げろ・パニック・GHQ
10. 最強の世界1
11. 最強の世界2
12. 最強の世界3
13. 芝浜高校生徒会2
14. 金森の自身
15. ミッションA
16. テッポウガニ上陸
17. 生徒会の噂
18. 金森、帰還す
19. ミッションB
20. 合同作戦計画
21. 揺らぐ浅草
22. 芝浜高校生徒会3
23. 三人の絆

Personnel:
佐藤望