仲良し三人組だったトーキング・ヘッズにただ一人プロのミュージシャンとして参加したジェリー・ハリソンです。問題作「リメイン・イン・ライト」発表後に、メンバーがそれぞれ課外活動をするようになると、ハリソンももちろんソロ・アルバムを制作しました。

 本作品は1981年に発表されたジェリー・ハリソンのファースト・ソロ・アルバム「赤と黒」です。チャート入りすることはありませんでしたけれども、評論家筋の評価も高く、静かに愛好する人の多いアルバムです。長らく入手困難になっていたことが拍車をかけました。

 ハリソンはトーキング・ヘッズに加入する前はジョナサン・リッチマンのモダン・ラバーズに参加していました。米国のパンク/ニュー・ウェイブ界のうち、カレッジ・サーキットでも人気のあった両巨頭に参加していたということはハリソンの評価をいや増しに高めています。

 ハリソン自身は「フィア・オブ・ミュージック」のツアーを終えるや否や、ニュー・ウェイブ・ソウルの歌手ノナ・ヘンドリックスのシングル曲をプロデュースしています。ヘンドリックスは後にトーキング・ヘッズのツアーにも参加しますし、本作品にも参加しています。

 この作品には他にもエイドリアン・ブリューやPファンクのバーニー・ウォーレル、スティーヴ・スケイルズ、ドレッテ・マクドナルドなどが参加しています。要するにトーキング・ヘッズの「リメイン・イン・ライト」のツアーに参加する面々がこぞって参加しているんです。

 ついでにいえばベースのバスタ・ジョーンズは本作品にこそ参加していませんが、ハリソンとはヘンドリックスのシングルを一緒にプロデュースした仲です。何が言いたいのかというと、ジェリー・ハリソンが「リメイン・イン・ライト」とその後のツアーで果たした役割の大きさです。

 トーキング・ヘッズのこの時期のソロ活動ではデヴィッド・バーンはイーノとの共作に「キャサリン・ホイール」のサントラ、クリスとティナはトム・トム・クラブと派手な話題を振りまきました。その中でハリソンのこの作品はストレートなソロ作なのにとても地味な扱いを受けていました。

 しかし、ハリソンがボーカルからギター、ベースにシンセなどをこなしてマルチ・インすとぅるメンタリストの本領を発揮したこのアルバムはリズムの冒険に満ちており、「リメイン・イン・ライト」の先にあるサウンドとして最も自然に感じます。彼の貢献の大きさを感じます。

 ただ、このようにどうしてもトーキング・ヘッズの諸作品との関連性で語ってしまいがちになるのが本作品の弱点です。このアルバムなどはもちろん単体で立っていける作品ですし、細かく刻む米国風アフリカンなリズムのファンキーな快感は病みつきになってしまいそうです。

 一曲目の「シングス・フォール・アパート」などはまるでアフリカの民族音楽のような細かいパーカッションから始まり、ファンキーなジョージ・マレーのベースなどが加わっていく凄味のある名曲です。とはいえアルバム全体の渋くて地味な印象に好き嫌いが分かれるのでしょう。

 なお、「赤と黒」はスタンダールの名作ではなく、ロンドンのパンク・ムーヴメントに大きな影響を与えたシチュアシオニスト、状況主義者のパンフレットに由来するのだそうです。大西洋の両岸でこの時期にシチュアシオニストの名前が登場するのは偶然ではないのでしょう。

The Red and the Black / Jerry Harrison (1981 Sire)



Songs:
01. Things Fall Apart
02. Slink
03. The New Adventure
04. Magic Hymie
05. Fast Karma / No Questions
06. Worlds In Collision
07. The Red Nights
08. No More Reruns
09. No Warning, No Alarm

Personnel:
Jerry Harrison : vocal, guitar, bass, synthesizer, clavinet, organ, piano, melodica, percussion
***
Adrian Belew : guitar
Yogi Horton : drums
George Murray : bass
Eluriel "Tinker" Barfield : bass
Bernie Worrell : clavinet, organ, synthesizer
John Cooksey : drums
Steve Scales : drums, percussion
Nona Hendryx : chorus
Dolette McDonald : chorus
Koko Mae Evans : chorus