前作「ヴィエナ」が予期せぬ大ヒットを記録したウルトラヴォックスが約1年で発表した新作「エデンの嵐」です。その人気は衰えず、本作品も英国ではトップ10入りする大ヒットを記録し、ニュー・ウェイヴ・シーンをリードするバンドとして意気軒高です。

 ジャケットは構成主義的なデザインとなっており、これまた背筋が凍るほどかっこいいです。ピーター・サヴィルの作品で、この時期のニュー・ウェイヴ系の素敵ジャケットのクレジットを見るとたいてい彼の名前が見つかったものです。納得のコラボです。

 本作品と前作との最大の相違は余裕です。前作が大成功をおさめたがために、制作の自由度が格段に上がりました。アルバム制作にあたっては事前に全く曲を作っていかず、スタジオ入りしてからすべてを作り上げたということです。自由ですね。

 本作品も「システム・オブ・ロマンス」や「ヴィエナ」と同様にクラウト・ロックの中心人物コニー・プランクがプロデュースに係わっており、アルバムはドイツにあるプランクのスタジオで制作されました。プランクのもとではスタジオ全体が楽器となります。

 当然の帰結ですが、本作品に収録された楽曲はすべてメンバー4人の共作となっています。スタジオの中で四人全員でさまざまな実験を繰り返しながらアルバムを制作していったことが如実に分かります。晴れてやりたいことができたというわけです。

 最もそのことが分かるのはアルバム・タイトル曲でしょう。この曲には収録曲「追憶」を逆再生したサウンドが使われています。スタジオで実験をするバンドがいかにもやりそうなことです。とはいえ実に効果的に使っていることは認めざるを得ません。

 それにスタジオで全員で曲を作っていくとどうしても内省的になるのでしょう。明るい脳天気なポップが出現するわけではありません。ウルトラヴォックス1号から2号になって、重苦しさが薄れてポップなテイストになったと思っていたところにこの作品です。

 ウルトラヴォックスを特徴づけるヘヴィ―なシンセ・サウンドは軽やかに飛翔するというよりも、重く沈み込んでいくタイプのサウンドです。バイオリンやヴィオラが似合います。メロディーも明るいポップなものというよりは地味に味わい深いものになっています。

 歌詞も内省的ですし、長めの曲が多く、コンセプト・アルバム的な佇まいさえ感じます。しかし、ミッジ・ユーロのボーカルはオペラ的で、やっぱり1号に比べると明るいです。この組み合わせが得も言われぬ深みをアルバムに与えているように思います。

 シングル・カットされたのは最初が「幻想の壁」、続いて「ザ・ヴォイス」です。後者の方が圧倒的にシングル向きだと思ったのですが、チャート的には前者の方が上位でした。彼らのシングルの売れ方は私には謎です。まあどちらもそこまで大ヒットというわけではありませんが。

 本作品と同時期にヒューマン・リーグが「愛の残り火」でアメリカを制覇します。一方、ウルトラヴォックスは結局本作品も米国ではさっぱりでした。ほんの少しの差だと思うのですが、やはりウルトラヴォックスはディープにヨーロッパ的なバンドなのでした。

Rage in Eden / Ultravox (1981 Chrysalis)



Songs:
01. The Voice
02. We Stand Alone
03. Rage In Eden エデンの嵐
04. I Remember (Death In The Afternoon) 追憶
05. The Thin Wall 幻想の壁
06. Stranger Within
07. Accent On Youth
08. The Ascent 上昇
09. Your Name (Has Slipped My Mind Again) 忘却の彼方

Personnel:
Warren Cann : drums, vocal
Chris Cross : bass, synthesizer, vocal
Billy Currie : synthesizer, piano, violin, viola
Midge Ure : vocal, guitar, synthesizer