トーキング・ヘッズのリズム隊、ドラムのクリス・フランツとベースのティナ・ウェイマスのデュオがトム・トム・クラブです。一般的にはトーキング・ヘッズ本体よりもこちらトム・トム・クラブの方が知名度が高いのではないでしょうか。それほど成功したユニットです。

 本作品は1981年に発表されたデュオのファースト・アルバムです。セルフ・タイトルですけれども、日本ではその中のヒット曲の邦題「おしゃべり魔女」をアルバムのタイトルにもってきました。この邦題が実にきまっています。ティナはまさにおしゃべり魔女です。

 クリスとティナの二人は学生時代から付き合っていたようです。このカップルにデヴィッド・バーンを加えてトーキング・ヘッズが誕生しています。この二人はそのまま結婚することになりますから、純愛一筋ということで何だかとても羨ましいです。

 やはりドラムとベースがカップルになると強いですね。常に二人でリズムをキープするわけですから。逆によほど波長がぴったり合っていないと長続きはしないでしょうね。クリスとティナの二人が織りなすリズムは当時のロック界においても独特な味わいがありました。

 本作品はトーキング・ヘッズの他の二人、バーンとジェリー・ハリソンがそれぞれソロ・プロジェクトを始めた際に二人にもアルバム作りを勧めたことから制作が始まりました。デュオはアイランド・レコードと契約を交わし、さっそくバハマのコンパスポイント・スタジオに向かいます。

 もともとレゲエのレジェンド、リー・スクラッチ・ペリーがプロデュースを担当する予定でしたが、彼が現れなかったために、クリスとティナの二人と当時まだ23歳だったジャマイカのエンジニア、スティーヴン・スタンレーの三人がプロデュースすることになりました。

 ベーシックなトラックはクリスとティナが録音し、そこにバハマの若手ギタリスト、モンテ・ブラウンがギターを加えた他、さまざまなアーティストが少しずつ参加しました。この時、隣のスタジオでグレース・ジョーンズの名作「ナイトクラビング」を制作中だったことが幸いでした。

 レゲエ界最強のリズム隊スライ・アンド・ロビー、ウェイラーズのメンバーだったタイロン・ダウニー、「ナイトクラビング」参加のベテラン、スティッキー・トンプソンやエイドリアン・ブリューにティナの三人の姉妹と、とてもお気楽で楽しげな制作風景が垣間見えます。

 アルバムからのシングル2曲「おしゃべり魔女」と「悪魔のラヴソング」がトム・トム・クラブの名前を不朽なものにしました。ヒップホップとレゲエを大胆に取り入れた2曲は当初こそノベルティー扱いされたものの、時代を先取りしていたことが後々証明されます。

 特に「悪魔のラヴソング」はグランドマスター・フラッシュやマライア・キャリーを始め、数えきれないアーティストがサンプリングして使用しています。何とも可愛らしい楽曲で力が抜けつつも一度聴いたら忘れられないサウンドを誇ります。奇跡的な名曲です。

 2曲は米国のダンス・チャートで1位となり、アルバムもそれに引っ張られてゴールド・ディスクを獲得しました。ティナのラップと鼻歌のような歌唱はこの頃起こったガールズ・バンドの革命の一環でもありました。何かと意義深い歴史に残る作品です。

Tom Tom Club / Tom Tom Club (1981 Island)



Songs:
01. Wordy Rappinghood おしゃべり魔女
02. Genius Of Love 悪魔のラヴ・ソング
03. Tom Tom Theme トム・トム・クラブのテーマ
04. L'éléphant
05. As Above, So Below 魔法はきまぐれ
06. Lorelei
07. On, On, On, On...
08. Under The Boardwalk 渚のボードウォーク

Personnel:
Tina Weymouth : vocal, bass
Chris Frantz : drums
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Adrian Belew : guitar
Monte Brown : guitar
Tyrone Downie : keyboards
Uziah "Sticky" Thompson : percussion
Lani Weymouth, Laura Weymouth, Loric Weymouth : vocal