あえなく空中分解してしまったウルトラヴォックスが復活しました。このたびはジョン・フォックスに代わるボーカリスト兼ロビン・サイモンに代わるギタリストとして、リッチ・キッズやヴィザージュで活躍していたミッジ・ユーロが加入しました。ウルトラヴォックス2号の誕生です。

 ユーロはそれなりに名をなしたアーティストですけれども、ウルトラヴォックスに加入した時は実はそれほどではありません。彼の名を世界にとどろかせた「ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス」はまだ先のことで、ウルトラヴォックスでの成功があってからです。

 この作品は新生ウルトラヴォックスの最初のアルバム「ヴィエナ」です。アルバムの曲作りはメンバー全員で行っており、ユーロの活躍は目立つものの、やはりウルトラヴォックスに新たに加入した新人らしく、早くバンドに慣れようとしているように感じます。

 それだけ、ビリー・カリー、クリス・クロス、ウォーレン・カンのオリジナル・メンバー三人によるウルトラヴォックスのブランドが確立していたということなのだと思います。決してフォックスのワンマン・バンドではなかったように、ここでもユーロのワンマンなどではありません。

 ユーロとカリーはヴィザージュで活動を共にして意気投合したようです。二人はヴィザージュの大ヒット曲「フェイド・トゥ・グレイ」を共同で作曲しています。このエレクトロニクスを目いっぱい活用したちょっとシリアスなポップ路線がウルトラヴォックスにも引き継がれます。

 プロデュースは前作同様にコニー・プランクが起用されています。またしてもプランクです。彼のエレクトロニクス・サウンドの処理は相変わらず素晴らしいです。しかも、本作品ではウルトラヴォックスの面々のクラウト・ロック愛があからさまに出ていますからなおさらです。

 冒頭のインストゥルメンタル曲「アストラダイン」はウォルフガング・リーヒマンの作品を思い出すシンセばりばりの曲ですし、あからさまにクラフトワーク的な「ミスターX」などがそのまんまです。とはいえカリーのバイオリンが登場したりして独自色は出ているのでご心配なく。

 この作品からは日本で「ニュー・ヨーロピアンズ」がサントリーのテレビCMに使われて大ヒットしました。U2やエコー&ザ・バニーメンなどを思わせるロック・テイストの曲でアルバムを代表するサウンドではありませんが、とてもかっこいい曲です。

 アルバムからシングルとして大ヒットしたのは「ヴィエナ」です。英国では2位にランクされました。重層的なシンセを使った迫力のある曲ですけれども、普通に考えるとシングル向きの曲ではありません。それが大ヒットしたことに私は大いに驚かされました。

 アルバム自体もじわじわとヒットし、英国では3位にまで昇りつめました。1号による前作をよりシンセ・ヘビーにする一方で、フォックスの重さを振り落したサウンドは時代にもよく適合しました。シンセの未来が一気に開花したように思われたものです。その意味でも重要作です。

 なお、ミッジ・ユーロはこの作品に至るまでにウルトラヴォックスとシン・リジーを掛け持ちしていました。ちょっと驚きではあります。ウルトラヴォックスのサウンドが完全にテクノに寄っているわけではないというのもよく分かるエピソードではあります。

Vienna / Ultravox (1980 Chrysalis)



Songs:
01. Astradyne
02. New Europeans
03. Private Lives
04. Passing Strangers
05. Sleepwalk
06. Mr. X
07. Western Promise
08. Vienna
09. All Stood Still

Personnel:
Warren Cann : drums, vocal
Chris Cross : bass, synthesizer, chorus
Billy Currie : piano, synthesizer, viola, violin
Midge Ure : guitar, synthesizer, vocal