ダメかと思いましたが、微かに分かるものですね。このジャケットは文字以外は黒一色ですが、エンボス加工がしてあります。ニューヨークのマンホールの模様だと聞いたことがあります。これも唸らされたデザインです。相変わらずハイセンスな人たちです。

 前作を成功させた彼らは気を良くしつつも、コマーシャルになり過ぎることを恐れ、デビュー前に使っていたティナ・ウェイマウスとクリス・フランツのロフトにこもって音作りを始めます。最初はあまりうまくいかなかったようで、前作に引き続きイーノ先生が呼ばれました。

 そうしてイーノを交えて制作されたのがこのアルバムです。タイトルは、70年代のベスト・セラーだったエリカ・ジョングの「飛ぶのが怖い」ではなくて、心理学の専門書からとられたんだそうです。突然音が恐怖の対象になる症状というのがあるんですね。

 アルバムは「イ・ズィンブラ」という特異な曲で始まります。これは戦間期に起こったダダイズムのアーティストであり、キャバレー・ヴォルテールの主人でもあったフーゴ・バルの音声詩に曲を付けた楽曲です。言葉としての意味はなく、音の響きに焦点を当てた詩です。

 この曲にはゲストとしてキング・クリムゾンの御大ロバート・フリップがギターで参加している他、コンガやブラジルのスルド、西アフリカのジャンベなどの打楽器奏者が参加しています。いよいよトーキング・ヘッズの世界リズム紀行が始まったと言えましょう。

 しかし、あからさまな楽曲はこれだけで、後は前作、前々作の延長にある奇妙でポップなロック作品となっています。ただ、前作に比べるとより実験的になっています。比較的同じ色に染められていた前作よりも、楽曲の幅が格段に広いです。

 各楽曲の邦題は総て名詞一つで出来ています。原題は少し違うのですけれども、もともとは原題も邦題と同じだったようです。それではイメージが拡散しすぎるということで、少し説明が復活したのが真相だそうで、そんなところにも彼らのこだわりが意識されて面白いです。

 タイトルをきっかけに曲が生まれていったのではないかと思うと味わいも増そうというものです。歌詞は総てデヴィッド・バーンの手になりますが、何ともシュールでありつつも、生活感が濃いという頭のよい歌詞には定評があります。曲名と歌詞のコンビネーションも絶妙です。

 楽曲の幅ということでは、基本的に次作の路線につながる「イ・ズィンブラ」や「ライフ」「シティーズ」組と、もっと先の「リトル・クリーチャーズ」あたりを彷彿させる「ヘヴン」を両極とします。さらに実験的な「ドラッグス」や「エレクトリック・ギター」が斜め上にある印象です。

 人気が高いのは、ミニマルな乾いたビートが展開する「ライフ」や「シティーズ」でしょう。ライブでも定番になりましたし、元気のいいパンクなヘッズが堪能できます。全般にどこか変態チックな彼らの音楽はますます意気軒昂です。

 しかし、ブレイクした前作と、とにかく話題の次作に挟まれて、特に日本ではこの作品は地味な扱いを受けています。評論界の人気者たるヘッズの皆さんならではですが、少し可哀想です。前後の山の両方をうまくバランスさせた見事な傑作です。

*2014年10月13日の記事に手を加えました。

Fear Of Music / Talking Heads (1979 Sire)



Songs:
01. I Zimbra
02. Mind
03. Paper
04. Cities
05. Life During Wartime ライフ
06. Memories Can't Wait メモリーズ
07. Air
08. Heaven
09. Animals
10. Electric Guitar
11. Drugs
(bonus)
12. Dancing for Money (unfinished outtake)
13. Life During Wartime (alternate version)
14. Cities (alternate version)
15. Mind (alternate version)

Personnel:
David Byrne
Chris Frantz
Jerry Harrison
Tina Weymouth
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Brian Eno : treatments
Gene Wilder and Ari : congas
Robert Fripp : guitar
The Sweetbreathes : chorus
Julie Last : chorus