ジャケットはポラロイド・カメラで接写した528枚の写真を寄せ集めてできています。絶妙なずれが得も言われぬ風情を醸し出していて、そのハイセンスに思わずうならされたものです。決して美しいわけではありませんが、鳥肌の立つかっこよさです。

 紙ジャケで再発されたトーキング・ヘッズの2作目「モア・ソングス」には、渋谷陽一、阿木譲、大鷹俊一のお三方による解説が掲載されています。これに今野雄二などを加えるとさらに面白いです。彼らがいかに音楽評論家の皆様を魅了したかがよく分かるというものです。

 本作品はプロデューサーにブライアン・イーノが起用されました。イーノからのラブコールだったようで、放置プレイも多いイーノが本作では5人目のトーキング・ヘッズとして、プロデュースのみならず、さまざまな楽器の演奏までしています。よほど相性がよいのでしょう。

 その結果、デビュー作に比べると格段に洗練された作品となり、商業的にも全米トップ30入りを果たしました。シングル・カットされたアル・グリーンの名曲「テイク・ミー・トウ・ザ・リヴァー」のカバーもトップ30入りするヒットを記録しています。俄然注目を集めました。

 ニューヨーク・パンク勢の中にあって、トーキング・ヘッズは知性派扱いを受けていました。それはそれで良さそうですが、青白いインテリの音楽だというのはロックの世界においてけっして誉め言葉ではありません。本人たちは大いに憤慨したようです。

 そんな気持ちもあっての「テイク・ミー・トウ・ザ・リヴァー」かもしれません。もともと彼らはソウル・ナンバーもレパートリーとしていましたし、リズムのはねなどはブラック・ミュージック・フリークであることを如実に示していもいます。肉体派なんですね。

 本作品では、前作のような素朴な制作の仕方ではなくて、リズム・セクションが強調されて、ずいぶんメリハリのあるサウンドになりました。ギターやキーボードの音もカラフルです。痙攣的なポップ感覚はそのままに、彼らの持ち味を十二分に生かした音作りです。

 とてもきれのあるサウンドははきはきしています。そこはブラック・ミュージック、さらにはアフリカ的です。からからできれきれ。デヴィッドのボーカルはじわじわと奇天烈な味がしてきます。初期ヘッズのサウンドはここに完成されたと言えるでしょう。

 楽曲は前作の延長線上にありますが、最後の2曲はやや特殊です。「テイク・ミー・トウ・ザ・リヴァー」と「ビッグ・カントリー」がそれで、両方ともパンクにしては長めの曲で、落ち着いた音の響きが彼らの新しい魅力になっています。それに重い。

 この頃のアメリカはカーター大統領の時代で、ガソリン不足と二桁インフレなどで大国の威信が大きく損なわれた時期にあたります。そんな暗く重苦しいアメリカを象徴するかのような「ビッグ・カントリー」です。バーンはこの後もアメリカを鋭くえぐっていきます。

 裏ジャケットには大量の衛星写真を重ねたアメリカ合衆国の姿が描かれています。イーノとの化学反応で革新されたサウンドがまぶしい本作品には、ロンドンとは異なる文脈のパンク精神が横溢しています。ヘッズの作品の中でも私の音楽観を決定づけたアルバムです。

*2014年10月21日の記事を書き直しました。

More Songs About Buildings And Food / Talking Heads (1978 Sire)



Songs:
01. Thank You For Sendeing Me An Angel 天使をありがとう
02. With Our Love
03. The Good Thing
04. Warning Sign 警告
05. The Girls Want To Be With The Girls 女の子は女の子に
06. Found A Job
07. Artists Only
08. I'm Not In Love
09. Stay Hungry
10. Take Me To The River
11. The Big Country
(bonus)
13. I'm Not In Love (alternative version)
14. The Big Country (alternative version)
15. Thank You For Sending Me An Angel ("Country Angel" version)

Personnel:
David Byrne : vocal, guitar, percussion
Chris Frantz : drums, percussion
Jerry Harrison : piano, organ, synthesizer, guitar, chorus
Tina Weymouth : bass
***
Brian Eno : synthesizer, piano, guitar, persussion, chorus
Tina And The Typing Pool : chorus