前作からのシングル「永遠の愛の炎」が驚きの全米1位を獲得して、再び人気を取り戻したチープ・トリックが2年ぶりに新作「バステッド」を発表しました。意外にインターバルが空いています。人気が再燃したとはいえ、もはやベテランですから時間が空くのもやむを得ません。

 本作品では再びメンバーの楽曲が増えてきました。作曲クレジットがメンバーだけの楽曲は全11曲中6曲をしめています。そして、カバー曲には決してレーベル側に言われたわけではないと思われるロイ・ウッドの「ロックン・ロール・トゥナイト」です。

 前作のヒットのおかげでアルバム制作の主導権をふたたび自分たちの手に取り戻したということでしょう。とはいえ、ヒットの秘訣と思われた外部ライターが係わった曲もカバー曲を除いて4曲もあるわけですから、両者の折衷路線が採用されたということです。

 プロデューサーは前作に引き続いてリッチー・ズィトーが担当しています。二作続けての起用はトム・ワーマン以来です。チープ・トリックには大物過ぎないプロデューサーの方が良さそうです。ここへきて気づいたとしたら遅すぎるわけですが。

 本作品での初めてポイントは大物ゲストの参加です。フォリナーのミック・ジョーンズ、プリテンダーズのクリッシー・ハインド、スパークスのラッセル・メールがそれぞれ1曲ずつ参加しているんです。さすがはチープ・トリック、大物が喜んで参加してくれています。

 思わずにやりとしてしまったのはラッセル・メールの参加です。チープ・トリックの捻ったポップ感覚はスパークスと共通するものがあると思っていたので、これには膝を打ちました。ラッセルはコーラスで参加しているだけですが、しっかりと爪痕を残しています。

 また、キーボードには1980年代前半のポコを支えたキム・ブラードが招かれています。ポコといえば数々の有名ミュージシャンを輩出したバンドとして知られています。ブラードはその例にもれず、エルトン・ジョンやCSN&Yなどとも共演する名鍵盤奏者です。

 アルバムは前作に引き続いて、比較的オーソドックスなハード・ポップ路線を、1990年らしいサウンドで彩っています。とはいえ、この頃のチープ・トリックは産業ロックと揶揄されることもありました。確かにバンドの息遣いのようなものは薄らいでいる印象です。

 そうなるとフロントに立って、力強いボーカルでぐいぐい押していくロビン・ザンダーのソロ・アルバムのように映らないこともありません。リック・ニールセンは器用なだけにロビンを盛り立てる曲作り、サウンド作りを徹底できてしまいます。

 とはいえ、楽曲は「キャント・ストップ・フォーリン・イントゥ・ラヴ」を始め、相変わらず粒ぞろいですし、演奏もしっかりしていますから、決して駄作などではありません。さすがはチープ・トリックです。1970年代ロックに魅せられたことがある人ならば楽しめること請け合いです。

 しかし、アルバムは期待したほどは売れませんでした。アルバムは全米44位どまりです。アメリカのロック界はヘヴィ・メタル全盛でグランジ前夜の時期、一方でヒップホップがますます主流になってきた時期です。まあ商業的には仕方ないところです。

Busted / Cheap Trick (1990 Epic)



Songs:
01. Back 'N Blue
02. I Can't Understand It
03. Wherever Would I Be
04. If You Need Me
05. Can't Stop Fallin' Into Love
06. Busted
07. Walk Away
08. You Drive, I'll Steer
09. When You Need Someone
10. Had To Make You Mine
11. Rock 'N' Roll Tonight

Personnel:
Bun E. Carlos : drums
Robin Zander : vocal
Rick Nielsen : guitar
Tom Petersson : bass
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Mick Jones : guitar
Chrissie Hynde : vocal
Russell Mael : chorus
Kim Bullard : keyboards