ニューヨーク・パンクとして紹介された一群のバンドの中で、トーキング・ヘッズはとてもポップで妖艶だったブロンディーと共に異彩を放っていました。彼らはいかにもインテリっぽい感じがしたものです。今や、両者がパンクと呼ばれた時期があったというのも信じがたいですね。

 トーキング・ヘッズは、ニューヨーク近郊のロード・アイランドでアート・スクールの学生さんが中心になって結成されたバンドです。デヴィッド・バーンを中心に、ベースの紅一点ティナ・ウェイマウスとドラムのクリス・フランツがそのメンバーです。

 ニューヨークに出てきた彼らはマクシス・カンサス・シティーと並ぶパンクの聖地CBGBのオーディションに合格して晴れてパンク・シーンに躍り出ます。その後、モダン・ラヴァーズなどでプロとして活動していたジェリー・ハリソンが加わってバンドが完成します。

 当時は刷新の空気が流れていた時期でしたから、レコード会社も鵜の目鷹の目で新しいバンドを探していました。彼らも追い風を受けて早々にサイヤー・レコードと契約を交わし、さくさくとこのデビュー・アルバムを完成させることになりました。

 後にミュージック・シーンに大きな足跡を残すトーキング・ヘッズですが、このデビュー・アルバムはかなり地味でした。面白いバンドが出てきたなという印象を受けましたが、当時はさほど大きな注目を集めるには至りませんでした。

 プロデュースにあたったのは、ジョン・ボンジョヴィの親戚トニー・ボンジョヴィでした。比較的普通のロック・サウンドにまとめようとしていて、装飾をできるだけ排したデモ録音のような佇まいがいたします。この当たりが本作品への評価が分かれた理由です。

 しかし、変な話ですが、後期のヘッズに感じが似ています。要するに彼らの持ち味がすでにここで十二分に発揮されていて、後の展開をすでに内包しているということだと思います。一言で言えば、とてもひねくれたポップなロックということですが。

 「美は痙攣的なものである」というブルトンの詩を引いていたのはパティ・スミスですが、当時、最も痙攣していたのはデヴィッド・バーンその人でした。同じニューヨークではスーサイドなども痙攣的でしたが、デヴィッドはテツ&トモ的な痙攣をみせてくれました。

 この作品からは永遠のヘッズ・アンセムとなる「サイコ・キラー」がシングル・カットされています。後のライブでも必ず披露される彼らの代表曲で、ここでのおとなしめのアレンジも光る名曲です。一部使われているフランス語の歌詞も心憎いです。

 アルバムは原題ではあんまりだと思われたのでしょう、最初はパンクに引きずられて「怒りの誕生」、その後考え直して「サイコ・キラー’77」とされました。これは結構正解かもしれません。多くの人の頭には「サイコ・キラー」の入ったアルバムとして記憶されていますから。

 他の曲が悪いわけではありませんが、当時はまだまだ習作的な感じがしてしまっていました。彼らが解散した頃になって、改めてちゃんと聴いてみたら、実は素晴らしい作品だったんだと思った人が多いのではないでしょうか。私もその一人です。 

*2014年10月9日の記事を書き直しました。

Talking Heads : 77 / Talking Heads (1977 Sire)



Songs:
01. Uh-Oh, Love Comes To Town
02. New Feeling
03. Tentative Decisions
04. Happy Day
05. Who Is It?
06. No Compassion
07. The Book I Read この本について
08. Don't Worry About The Government 心配無用のガバメント
09. First Week / Last Week…Carefree
10. Psycho Killer
11. Pulled Up
(bonus)
12. Love→Building On Fire
13. I Wish You Wouldn't Say That
14. Psycho Killer (accoustic)
15. I Feel It In My Heart
16. Sugar On My Tongue

Personnel:
Tina Weymouth : bass
Jerry Harrison : guitar, keyboards, vocal
David Byrne : guitar, vocal
Chris Frantz : drums