見違えるようなヨーロピアン・テイストのジャケットに、落ち着いたタイトルを冠したアルバムです。皮肉っぽいパンク・テイストの前作から比べるとサウンドも随分表情が変わっています。一般に彼らの到達点とされているアルバムです。

 この作品は、クラウト・ロックの影の主役コニー・プランクのスタジオで制作されています。ドイツです。ケルンです。プランクはプロデューサーとしてもクレジットされています。彼が係わるとエレクトロニクスが異物でなくなり、全体のサウンドに自然に編みこまれます。凄いです。

 もともとウルトラヴォックスは、クラウト・ロックの代表選手ノイ!にあやかって、バンド名にエクスクラメーション・マークを付けていました。それくらいクラウト・ロックに入れ込んでいたわけです。なのにドイツ制作の今作でエクスクラメーションが落ちているのはご愛嬌です。

 ドラムのウォーレン・カンは、このアルバムで「ぼくたちはようやく自分たちのいるべき場所を築き上げ始めたように感じている」と語っています。攻撃的だった前作の中で試されていたエレクトロニクスはここではむしろ中心に居座ることになりました。

 その流れについていけなくなったということで、ギタリストがスティーヴ・シアーズからロビン・サイモンに代わっています。ジョン・フォックスは彼のギター・プレイを絶賛していまして、シンセサイザーの音色の多彩さに負けない「ニュー・ギター」となっています。

 ウルトラヴォックスのサウンドと聞いて思い浮かべるのはこのアルバムのサウンドです。シンセを使ったロックの最初のスターとなるゲイリー・ニューマンや全米を制覇したヒューマン・リーグ、そして日本のYMOなどが影響を受けたサウンドがこれです。

 フォックスが語ります。このアルバムで「活用したような最新技術や機器が身近なものになったとき、ぼくたちはたまたまそこにいた。それだけのことだ」。こうした技術や機器は今ではさらに進化していますが、質的にはつながっています。

 ですので、ウルトラヴォックスのこのサウンドは今ではあまりに当たり前のものなのですが、それは彼らが先駆となった世界が主流となっているということです。そして、先駆サウンドであるにも関わらず、ちっとも陳腐化していません。そこが凄い。

 ジョン・フォックスのヨーロピアンな感性と抜群の存在感、湿った幻想的な世界観、リズムやメロディーの冒険など、当時から際立っていましたが、今でも十分刺激的です。ヨーロッパでは正当に評価されなかったというのが不思議です。

 バンドはレーベルから見放され、自腹を切ってアメリカでツアーを行います。意外にも成功したにもかかわらずバンドは分裂、ジョン・フォックスは脱退してしまいました。ウルトラヴォックス1号の終焉です。破れかぶれの自腹ですから、やはりそうなる運命だったのでしょう。

 脱退後1年、彼らの再評価が始まります。「なぜウルトラヴォックスの魅力に気付かなかったのかと悔やんでいる人は、きっと少なくないはずだ」。日本ではニュー・ウェイブの代表選手でしたから、ちょっとこのあたりは驚きました。早めに日本に来ていればよかったのに。

*2014年9月16日の記事を書き直しました。

Systems of Romance / Ultravox (1979 Island)



Songs:
01. Slow Motion
02. I Can't Stay Long
03. Someone Elses's Clothes
04. Blue Light
05. Some Of Them
06. Quiet Men
07. Dislocation
08. Maximum Acceleration
09. When You Walk Through Me
10. Just For A Moment
(bonus)
11. Cross Fade
12. Quiet Men (full version)

Personnel:
Warren Cann : drums, rhythm machine, vocal
Chris Cross : bass, synthesizer, vocal
John Foxx : vocal
Billy Currie : keyboards, violin
Robin Simon : guitar, vocal