日本男児はウルトラという言葉に弱いです。ウルトラヴォックスももちろんウルトラ・ファミリーの一員ですから、名前だけで親しみを感じてしまいます。そういうわけで、スティーヴ・マリンズのライナーによって、彼らが英国のメディアから嫌われていたと知って驚きました。

 日本では特にロック・マガジンを中心に評価が高かったですし、概してメディアは好意的でした。それに日本の誇るYMOの楽曲の中には、まんまウルトラヴォックスな楽曲があって、坂本教授が憤慨しているほどですから、影響力もあったわけです。

 この作品はそんなウルトラヴォックスのセカンド・アルバムです。前作からわずか8か月のインターバルでの発表ですけれども、当時としてはさほどハイペースというわけではありません。時間をかけたプロダクションが嫌われていた時代です。

 タイトルはとても挑発的に「ハ・ハ・ハ」です。皮肉たっぷりな姿勢は、前作への酷評によってもたらされた様子です。「できるだけたくさんの連中を怒らせてやろうと決めた」とは、キーボードのビリー・カリーの言です。逆にパンク的な姿勢になっているのが面白いです。

 ビリーはもともと正規の音楽教育を受けたビオラ奏者です。「僕はパンク・ファンの前でビオラを演奏していたんだ。それがどんなものかわかるかい」というわけで、彼はむしろキーボード奏者として、シンセの可能性を追及することになりました。

 このアルバムでは、パンクなビオラを弾きまくっていますけれども、それ以上にエレクトロニクスが活躍しています。ドラムのウォーレン・カンによれば、このアルバムで「初めて電子楽器の可能性を追求することができた」そうで、後のエレポップの隆盛の礎となりました。

 ジョン・フォックスも、シンセサイザーをギター以上にパンクだと感じていたと後に語っています。若い人にはピンと来ないところでしょうが、当時はシンセはプログレの領域の楽器で、若者の音楽パンクではある意味タブー視されていたんですね。

 そんなわけで、このアルバムには後に完全に主流となるエレクトロニクスも盛り込んだニュー・ウェイブ・サウンドがてんこ盛りです。それはむしろニュー・ロマンティクスと言っていいかもしれません。アメリカを侵略していったあれです。

 前作に比べると、短期間で制作されただけに勢いがあります。先行するシングル「ヤング・サヴェージ」に導かれるように、少し斜に構えたロック度の高いハードめな楽曲が中心となっていて、そこにパンクなタッチの電子楽器が顔を出しています。

 特にアラン・レネの映画「二十四時間の情事」の原題をタイトルとする「ヒロシマ・モナムール」はドラム・マシーンを使った楽曲です。そのチープなサウンドは見事に挑発的でした。なお、フォックスは映画は見ておらず、タイトルだけ拝借したそうです。

 本作品で聴かれる音楽は、何だかよくあるサウンドのようになっていますけれども、彼らが先駆者でした。フォックスの孤高の姿勢がとっつきにくい印象を与えるバンドですが、この作品はよりバンドとしてまとまっていて、5人のタイトなアンサンブルが素敵です。

*2014年9月18日の記事を書き直しました。

Ha! Ha! Ha! / Ultravox! (1977 Island)



Songs:
01. ROckWrok
02. The Frozen Ones
03. Fear In The Western World
04. Distant Smile
05. The Man Who Dies Every Day
06. Artificial Life
07. While I'm Still Alive
08. Hiroshima Mon Amour
(bonus)
09. Young Savage
10. The Man Who Dies Every Day (remix)
11. Hiroshima Mon Amour (alt version)
12. Quirks
13. The Man Who Dies Every Day (live)
14. Young Savage (live)

Personnel:
John Foxx : vocal
Stevie Shears : guitar
Warren Cann : drums, vocal
Billy Currie : violin, keyboards, synthesizer
Chris Cross : bass, vocal
***
CC : sax