クラウト・ロックの数あるバンドの中にあって、大人気というわけではないバンド、ストリートマークの3枚目のアルバム「ドライ」です。彼らのファースト・アルバムはコニー・プランクがプロデュースしていましたが、本作品もプランクのスタジオで録音され、つながりを保っています。

 ストリートマークは前作「アイリーン」というか「ドリームズ」を発表して以降、音楽的なリーダーシップをとっていたウォルフガング・リーヒマンが事件に巻き込まれて亡くなってしまうという悲劇に見舞われます。その悲劇を乗り越えて制作されたのがこの作品です。

 彼らのデビュー作はゲオルグ・ブッシュマン、セカンド・アルバムはリーヒマンがフロントに立っていました。二人を失くした今、ストリートマークではデビュー作からのメンバーのドロテア・ロークスとトーマス・シュライバーの二人がようやくリーダーシップを握りました。

 ドロテアはキーボード、トーマスはギター、ボーカルはこの二人という布陣に、ドラムには新加入のボグダン・スコウロネックが迎えられ、ストリートマークは実質的にトリオ編成となりました。これも運命のなせる業といってよいのでしょう。

 ベースにはワレンシュタインのユルゲン・プルータがゲストとして参加しています。彼はスペシャル・ゲストとしてクレジットされており、ジャケットにも描かれていません。ベースがゲストという形態は珍しい部類に入ります。ロキシー・ミュージック的です。

 アルバムはいきなりシンセサイザー全開で始まります。1979年ですから、当然アナログ・シンセサイザーで、とても懐かしい響きがいたします。プログレッシブ・ロック全盛のドイツですから、こうなるとタンジェリン・ドリームなどを思い出さずにいられません。

 リーヒマンのシンセサイザーに比べると、ドロテアのそれはとてもオーソドックスです。まさにジャーマン・プログレの王道といってよいもので、ストリートマークはそちらの方向に舵をきったのかと思ってしまいました。そんなことはありませんでしたが。

 その後は、アナログ・シンセとシュライバーのギター、それに二人のボーカルが絡み合うポップな展開が待ち受けています。二人はこれまでメインで歌ってこなかったわけですが、ここでは半ばやけくそのようにごりごりと歌っています。腹が座りました。

 この当時は英国のパンクによって、ドイツのカンやアモン・デュールなどが海外でも注目を集めていました。ストリートマークはそんな自国への注目などどこ吹く風と、英米のポップ寄りのロックを展開しています。いかにも本場ではない感が強く、そこが何とも言えない味です。

 一方で、当時の世界的な流行にはもう一つディスコがありました。こちらには見事に目配りが聴いています。「ディスコ・ドライ」なる曲がそれです。およそ似つかわしくないと思いましたが、これがなかなか珍妙な味わいを醸していて素敵です。

 生きる糧となるアルバムです。けっして大ヒットしたり、名作として後世に残ったりするような作品ではありませんが、何とも愛おしいです。時代と密着しているわけでもなく、何かを背負っているわけでもない。とてもパーソナルです。やはり根が明るい人たちなのでしょう。

Dry / Streetmark (1979 Sky)



Songs:
01. Intro
02. Welcome
03. Sunny Queen
04. Lovers
05. Drifting
06. Disco Dry
07. Watch Out

Personnel:
Bogdan Skowronek : drums, percussion
Thomas Schreiber : guitar, vocal
Dorothea Raukes : keyboards, vocal
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Jürgen Pluta : bass