パンク/ニュー・ウェイブ時代の英国でぶいぶい言わせたウルトラヴォックスには1号と2号があります。「ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス」で有名なミッジ・ユーロが在籍したのは2号、心なしかユリ・ゲラーに似ているジョン・フォックスがリードをとっていたのが1号です。

 大ヒットしたのは2号ですが、1号はニュー・ウェイブ世代には強く心に残っているバンドでした。考えてみれば、看板スターが変わったのに同じバンド名というのはとても珍しいことです。二人ともバンド加入前はそれほど知名度は高くありませんでしたからなおさらです。

 この作品はその1号のセルフ・タイトルのデビュー作品です。プロデュースにあたったのはスティーヴ・リリーホワイトでしたが、当時神のごとく崇められていたブライアン・イーノがお手伝いしていることの方が有名になってしまいました。イーノはいい仕事をしました。

 ジョン・フォックスは後に仙人のようになって耽美を追求し、ヨーロッパ・ヨーロッパすることになるのですけれども、ここではそこまで趣味を全開にはしていません。何たって、彼らの最初のレコーディングは低予算ポルノ映画のための音楽だったくらいですから。

 「ロイ・オービスンのメロディ、ローリング・ストーンズやヴェルヴェット・アンダーグラウンドの粗野な攻撃力、デヴィッド・ボウイやマーク・ボランが書けなかった歌詞」を違和感のないかたちで折衷するのが狙いだったとはメンバーの一人、ウォレン・カンの弁です。

 これがそのまま彼らの音楽だとすると、当時勃興してきたパンク・ロックとは対極にあるのですが、うまくしたもので、フォックスはここらでニューヨーク・ドールズに衝撃を受けます。そうして、ちょうどほどよくパンクがブレンドされて彼らの音楽が完成したわけです。

 さまざまな音楽の影響を受けて、彼らの創作意欲はぱんぱんに膨らんでいたことでしょう。それが一気に花開いたのがこのアルバムです。見事な洗練を見せる若気の至りであり、気負いたったアマチュア風情が残っているところが何とも美しいです。

 セカンド、サードと音楽的には洗練されていきますが、ここでの初心の魅力は何物にも代えられません。このエレクトロなロックはポップな魅力に溢れていると同時に、実に都会的です。「ワイルド・ビューティフル&ダムド」には当時のロンドンが詰まっています。

 レゲエを取り入れた「デンジャラス・リズム」、機械には似つかわしくない熱いボーカルの「マシーンになりたい」、ヰタ・セクスアリスな「マイ・セックス」、ポップなセンスの「スリップ・アウェイ」などなど、捨て曲なし。ビリー・カリーのバイオリンも大活躍しています。

 ところがこの頃ウルトラヴォックスは音楽メディアからは目の敵にされていました。パンクによって混乱した評論家陣には何が新しいのか分からなくなっていたのでしょうね。グラム・ロック的なシアトリカルなサウンドは旧世代の生き残りのように思われたようです。

 しかし、フロントマン交代後もバンド名を踏襲したのも納得できるバンドとしての充実ぶりを見せる本作品はそんな雑音を見事に払拭することになります。結局、ウルトラヴォックスの最高傑作ではないかと私などは思います。素晴らしいアルバムです。

*2014年9月16日の記事を書き直しました。

Ultravox! / Ultravox! (1977 Island)



Songs:
01. Satday Night In the City Of The Dead 狂熱の街角
02. Life At Rainbow's End (For All The Tax Exiles On Main Street)
03. Slip Away
04. I Want To Be A Machine マシーンになりたい
05. Wide Boys
06. Dangerous Rhythm
07. The Lonely Hunter
08. The Wild, The Beautiful And The Damned
09. My Sex
(bonus)
10. Slip Away (live)
11. Modern Love (live)
12. The Wild, The Beautiful And The damned (live)
13. My Sex (live)

Personnel:
John Foxx : vocal
Warren Cann : drums, vocal
Chris Cross : bass, vocal
Billy Currie : keyboards, violin
Stevie Shears : guitar