大そう思い出深いアルバムです。ドイツのプログレッシブ・ロック作品を聴きはじめた頃に出会ったウォルフガング・リーヒマン唯一のソロ・アルバムです。輸入盤ショップでジャケットに一目ぼれしてしまいました。ジャーマン・プログレに抱いていたイメージそのままでしたから。

 ジャケットのセンスは抜群です。シュールな近未来のイメージで、真っ青な水晶の洞窟のような背景に蒼い化粧をしたリーヒマンが、マン・マシーンとして立っている。20世紀の近未来はこんな世界だったんです。いわば懐かしい近未来です。

 リーヒマンは1966年に音楽活動を開始しています。やがて、ノイ!のミヒャエル・ローターとともにスピリッツ・オブ・サウンドというビート・バンドを結成し、そのボーカルを担当していました。彼らはザ・フーの前座を務めたこともあるそうですから驚きます。

 その後、リーヒマンはポップ・バンドのストリートマークを経て、1977年にソロ・アーティストとしてのキャリアを歩み始めました。そうして、ザ・フーの前座から、哀愁のエレポップのストリートマークを経たリーヒマンが作り出したのはエレクトロニック・ミュージックなのでした。

 この作品ではストリートマークの盟友ハンス・シュワイスがドラムを演奏している他は、すべてのサウンドをリーヒマンが作り出しています。ベースやピアノ、電子バイオリン、そして何よりもアナログ・シンセサイザーが大活躍しています。まさにジャーマン・プログレです。

 アルバム発売当時、ロッキン・オン誌の投稿レビュー欄に、本作品「ヴンダーバー」のタイトル曲を念頭に「ジャーマン・プログレ版リンゴ追分」と評した投稿が掲載されていました。実にうまいことをいう人がいるもんだなあといたく感じ入ったことを覚えています。

 タイトル曲はそんな素朴なメロディーを、信じられないくらいにぺこぺこしたリズムに乗せています。痛快な快作といってよいでしょう。もともと根が明るいポジティブな人なんだろうと思わせる素晴らしい楽曲で、「きらめきワンダフル」とでも邦題をつけたいところです。

 アルバムは全体にシャワーのようにシンセサイザーが鳴り響く、ドイツのプログレッシブ・ロックらしいサウンドに彩られています。それもシンセをいじって出てきたサウンドを、「ああ、この音いいね」などと言いながら、丁寧に拾っていったような感じがします。迷いがない。

 その真っ直ぐな姿勢が作品の大きな魅力となっている明るさをもたらしているのだと思います。浮遊感にあふれた美しいシンセ・サウンドがあっけらかんと展開していくさまはいつまでも心躍ります。すべてインストゥルメンタルとしたのも大正解です。

 しかし、そんな素敵なサウンドを作り出したリーヒマンはこの作品の発売を見ることはできませんでした。デュッセルドルフの旧市街を散歩している時に二人の酔っ払いに刺され、あえなく最後を遂げてしまったんです。まだ31歳の若さでした。

 もしもリーヒマンが生きていたとしたらどのような音楽を作り出していたのだろうかと思うと残念でなりません。私はこのアルバムを一生好きでいられる自信があります。今でも無性に聴きたくなることがあります。続編がなかったことは世界にとって不幸なことでした。

*2012年2月6日の記事を書き直しました。

Wunderbar / Wolfgang Riechmann (1977 Sky)



Songs:
01. Wunderbar
02. Abendlicht
03. Weltweit
04. Siberland
05. Himmelblau
06. Traumzeit

Personnel:
Wolfgang Riechmann : vocal, violin, guitar, piano, bass, synthesizer, sequencer, vibraphone, drums
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Hans Schweiß : drums