イ・プーは前作「ミラノの映像」がゴールド・ディスクに輝く大ヒットを記録して、いよいよ勢いに乗ってきました。しかし、そんな時にまたまたメンバーが交代してしまいます。この頃までは本当に落ち着かないバンドでした。長く活動するバンドなのに大変です。

 今回は、絶世の美男子と言われてアイドル的な人気を誇ったベーシスト、リッカルド・フォッリが抜けてしまったんです。ソロになるということでした。ベーシストがソロになるというのも考え難いですが、イ・プーは全員が歌えるバンドなのでした。落ち着かないのも分かります。

 メンバーは随分慌てたといいますから、突然の脱退だったのでしょう。代わりに加入したのは、レッドことブルーノ・カンツィアンで、加入時は20歳を越えたばかりながら、プロのバンド経験ももっていたというアーティストです。クラシックの素養もあったそうです。

 レッドはギタリストでしたけれども、リッカルドの後釜に坐るということで、ギターをベースに持ち替えての参戦です。荷が重いかと思われましたが、ポップからプログレまでこなす最年少メンバーとして、バンドをしっかりと支える役割を果たしていきます。

 そんなごたごたがありつつも1年足らずの間に本作品「パルシファル」が発表されました。本作品は結果的に5か月間もイタリアのチャートで3位以内にランクされ続けるという大ヒットを記録することになりました。バンドの勢いは止まるどころか加速したのでした。

 本作品の特徴は、コンセプト・アルバムの雰囲気を漂わせていることです。タイトルの「パルシファル」はアーサー王の聖杯伝説に出てくる騎士で、ワーグナーのオペラでも有名です。ジャケットの絵はそのパルシファルを描いたミラノの博物館所蔵の作品です。

 裏ジャケットや見開きに掲載されている写真では、メンバーが中世の騎士に扮しており、これは誰もがコンセプト・アルバムだと思う仕様になっています。しかし、アルバムの最後を締めくくる10分に及ぶ表題曲はあるものの、実際にはコンセプト・アルバムではありません。

 当時のイタリアはプログレ全盛時代で、ヒット・チャートにはキング・クリムゾンやピンク・フロイド、EL&Pなどの英国勢やイタリア本国のプログレ・バンドが目白押しでした。そんな中でまだ20代の若者たちが作品を発表する際にプログレ的仕掛けを施すことを責められません。

 それにサウンドもプログレらしくなってきました。今回もオーケストラが大活躍するのですが、バンド演奏の比重が少し高まってきています。特に表題曲第二部のインストゥルメンタル曲ではギター・ソロが俄然目立っています。それがかえってプログレっぽいです。

 収録された楽曲は大半がラヴ・ロックと称されるイ・プー節が全開です。美しいメロディーと華麗なオーケストレーションによる浪漫が漂います。私はシングル・カットされた「限りなき二人」が一押しです。アウトロの緩やかに上昇するストリングスなど感動的です。

 きらきらした前作に比べるとやや地味目ですが、ロビー・ファッキネッティに加えてドディー・バッターリアも作曲者に名を連ねるようになりました。存在感を放つレッドのベースも加えてバンドとしての強度が増したような気がします。イ・プーの進撃はとまりません。

*2012年12月25日の記事を書き直しました。

Parsifal / I Pooh (1973 CBS)



Songs:
01. L'Anno, Il Posto, L'Ora 年、場所、時間
02. Solo Cari Ricordi なつかしき想い出
03. Io E Te Per Altri Giorni 君と僕の日々
04. La Locanda 宿屋
05. Lei E Lei
06. Come Si Fa
07. Infiniti Noi 限りなき二人
08. Dialoghi 会話
09. Parsifal

Personnel:
Roby Facchinetti : piano, organ, mellotron, moog synthesizer, vocal
Red Canzian : bass, vocal
Dody Battaglia : guitar, vocal
Stefano D'Orazio : drums, vocal
***
Gianfranco Monaldi : conductor