「ネクスト・プロデューサー・プリーズ」、ローリング・ストーン誌はさすがに上手いこといいます。チープ・トリックの7作目のスタジオ・アルバム「ネクスト・ポジション・プリーズ」では、新たにトッド・ラングレンがプロデューサーに起用されています。

 思えば、デビュー作のジャック・ダグラスに始まり、トム・ワーマン、ジョージ・マーティン、ロイ・トーマス・ベイカー、ここに来てトッド・ラングレンと、7作のスタジオ・アルバムにして5人のプロデューサーが名を連ねています。しかもワーマンを除けば超大物ばかりです。

 いかにもロック・マニアのリック・ニールセンらしいです。さまざまな憧れのプロデューサーと仕事をすること自体に喜びを見出していたのでしょう。しかも時々に起用されるプロデューサーによってサウンド自体も大きく変わっています。楽しそうです。

 本作品はトッドがプロデュースしましたというサウンドになっています。アルバム名とプロデューサー名を結ぶクイズがあれば100%正解されるのではないでしょうか。選択肢がなくても本作品のプロデューサー名を当てられる人もけっこういると思います。

 トッドはギターも少し弾いているようですし、曲まで提供しています。「ヘヴンズ・フォーリング」がそれで、いかにもトッドらしい曲です。トッドはメロディーを光らせることに長けており、アルバムの他の曲もとてもメロディアスになっていて、そこがトッドらしいと感じる所以です。

 冒頭の曲「アイ・キャント・テイク・イット」を前作の1曲目「アイ・ウォント・ユー」と比べると両作品の違いが際立ちます。どちらも元気いっぱいな曲ですが、「アイ・キャント・テイク・イット」の方がメロディーが際立つコンパクトな作りになっています。

 ちなみにこの曲はロビン・ザンダーの単独名義です。これまでのチープ・トリックの曲ではニールセン以外のメンバーの単独名義はありませんでした。ニールセンのワンマン・バンドだと思われていましたが、それぞれのメンバーも力をつけてきていたのでした。

 初めてフルに参加するジョン・ブラントも含めた4人は、前作のニュー・ウェイブっぽさを後退させ、ハード・ロック路線も棚上げにして、ポップ職人トッドに身をゆだねてポップ路線全開のアルバムを作りました。あまりにトッドっぽいとの声はありますが、力作には違いありません。

 しかし、プロデューサー選びでレーベルに無理を言ったからか、このアルバムにはいろいろと注文をつけられました。まず、先行シングルはモーターズの「ダンシング・ザ・ナイト・アウェイ」のカバーを押し付けられています。トッドはプロデュースを拒否したそうです。

 さらに収録曲の曲順はもちろんのこと、入れようと思っていた曲が外されて、入れる予定のない曲が入れられています。私の手元にあるのは後になって当初想定通りの曲順としたオーソライズド・バージョンです。ほぼ四半世紀たってようやくたどり着きました。
 
 メンバーは高く評価するアルバムですけれども、残念ながらジャケットでパロディーにしたブルース・スプリングスティーンの「明日なき暴走」ほどは売れませんでした。トップ40入りも逃しています。いいアルバムなのに残念です。やはりトッドっぽすぎたのでしょうか。

Next Position Please / Cheap Trick (1983 Epic)



Songs:
01. I Can't Take It
02. Borderline
03. I Don't Love Here Anymore 愛の掟
04. Next Position Please
05. Younger Girls
06. Don't Make Our Love A Crime
07. 3-D
08. You Talk Too Much
09. Y.O.Y.O.Y.
10. Won't Take No For An Answer
11. Heaven's Falling
12. Invaders Of The Heart
13. Twisted Heart
14. Don't Hit Me With Love
15. You Say Jump
16. Dancing The Night Away

Personnel:
Bun E. Carlos : percussion
Robin Zander : vocal
Rick Nielsen : guitar, keyboards
John Brant : bass