ヒップホップの恐ろしさを遺憾なく発揮したジャケットです。墓石の並ぶ小高い丘の上には魔界の象徴のような木が一本。手前には髑髏やあばら骨が散乱しています。デビュー前に足を洗ったとは言え、本物のギャングだったという逸話を背景に凄味が半端ないです。

 私はヒップホップの熱心な聴き手ではありませんが、このサイプレス・ヒルのセカンド・アルバムは発表当時から大好きです。1990年代は我が家のCDも入れ替わりが激しかったんですが、このアルバムだけはしっかりと根を生やしています。手放せないアルバムです。

 サイプレス・ヒルは、ロスの三人組ヒップホップ・ユニットで、DJマグスがトラックを作って、B=リアルとセン・ドッグがラップを担当しています。それぞれ、イタリア系、チカーノ系、キューバ系とまるで出身も違いますが、アフリカンばかりだったヒップホップ界には異例のことです。

 DJマグスの作り出すトラックは、とても怪しくていかがわしいです。グラウンド・ビートのようなゆったり目のリズムと太いベースラインがどっしりと居座り、そこに音数の少ない上物が簡素な装飾を施します。上物も繰り返しが多く、リズム的でもあります。

 そして、二人のラップは、リズムよりも前に出てくることはなく、それが余計に凄味を醸し出しています。中毒性が高いんですね。この人たちの音楽は。そのうえ、曲は比較的短めながら、アルバム全体が同じ色に染め上げられていて、統一感が高いです。

 彼らの音楽が馴染みやすいのは、そのリズムがロック寄りだからだろうと思います。打ち込みビートによるテクノ系トラックではなくて、かなりの程度ロックの手触りがいたします。サンプリングを駆使しているのでしょうが、料理の仕方が独特です。

 サンプリングのネタは結構しっかりと記載されています。それによれば、何とブラック・サバスのデビュー・アルバムから「魔術師」がサンプリングされています。ベース・ラインでしょうか。他にも60年代のポップス・シンガー、ダスティー・スプリングフィールドなどが顔をだします。

 さらにジャズからジョー・ザヴィヌルとか、そのサンプリング・ネタはかなりジャンルレスです。クレジットされていないものも多そうですが、完全に料理しているので、サンプリングしたフレーズをそのまま使ったような安易な使用法ではありません。この頃は結構そういうのがありましたが。

 この作品は、ビルボードのチャートでは初登場1位を記録しています。これほどダークなギャング系ヒップホップが1位と言うのも驚きではあります。アルバムは結局300万枚以上を売り上げ、サイプレス・ヒルの代表作になりました。2作目でこの成績は凄いです。

 とても中毒性が高い音楽で、1993年の発表以降20年が経つわけですけれども、私はいまだに中毒から醒めません。禁断症状の出る間隔は随分長くなりましたが、それでも時々無性に聴きたくなります。レコードの溝をすべるチリチリ音が鳴り出すともう止められません。

 このアルバムのブックレットにはマリファナ賛歌が一番目立つところに書いてあります。曲名やスタッフ名よりも大きいです。歌詞もそういう方向らしいです。これほどの緊張感を保つには一本芯がいるわけで、それがマリファナ運動なんでしょう。面白い人たちです。

*2014年10月6日の記事を書き直しました。

Black Sunday / Cypress Hill (1983 Ruffhouse)



Songs:
01. I Wanna Get High
02. I Ain't Goin' Out Like That
03. Insane In The Brain
04. When The Shit Goes Down
05. Lick A Shot
06. Cock The Hammer
07. Lock Down
08. 3 Lil' Putos
09. Legalize It
10. Hits From The Bong
11. What Go Around Come Around, Kid
12. A To The K
13. Hand On The Glock
14. Break 'Em Off Some

Personnel:
B-Real
Sen Dog
DJ Muggs