EP「デイ・トリッパー」を挟んで発表されたチープ・トリックの5枚目のスタジオ・アルバム「オール・シュック・アップ」です。いよいよ1980年代のチープ・トリックの登場です。前作「ドリーム・ポリス」から1年ですけれども、ジャケットの雰囲気がまるで変わりました。

 それに何よりもプロデューサーの交代が大きいです。ヒットを支えたトム・ワーマンの代わりに迎えられたのはなんとジョージ・マーティンでした。しかもエンジニアにはジェフ・エメリックが起用されています。ビートルズのサウンドを支えた超大物二人です。

 こうなると俄然前作での「デイ・トリッパー」のカバーが意味を持ってくるような気がします。マーティンへの秋波だったのでしょうか。もともとリック・ニールセンを始め、メンバーがビートルズを大好きだったことは明かでしたから、バンドの熱望に答えた布陣だったのでしょう。

 そのビートルズっぽさはいきなり現れます。1曲目の「ストップ・ディス・ゲーム」のイントロが「ア・デイ・ン・ザ・ライフ」のドローンのようなんです。いかにもニールセンらしい気の利いたユーモアです。マーティンがプロデューサーですよと宣言するようなイントロです。

 また2枚目のシングルとなった「ワールド・グレイテスト・ラヴァー」はマーティンがベスト・トラックとする曲ですが、とてもビートルズっぽいです。マーティンがストリングスのパートを書いて、何やらジョージ・ハリソンの曲っぽくなってますし、ニールセンのボーカルはまるでジョン・レノンです。

 そんな曲もあって、もともとビートルズっぽい側面のあったチープ・トリックのサウンドがよりビートルズに寄ったとみることができます。とはいえ、さすがはチープ・トリックvsジョージ・マーティンです。けっして行き過ぎてはいません。しっかりチープ・トリックらしさも出ています。

 この頃の彼らは全米チャートを賑わす人気者になっていたにも係わらず、トム・ピーターセンによれば年間300ステージをこなし、合間には年2枚のペースでアルバムの録音をしていたそうです。人気が出ても何にも変わらない、ライヴが大好きなバンドでした。

 そのことは本作品の各楽曲を聴いても了解できます。やはりライヴ映えする元気なハード・ロック仕様の曲が多いんです。ジャケットに写るロビン・ザンダーも甘いマスクというよりも、ハードなロックンローラーのそれになっています。ぶっといボーカルがかっこいいですし。

 最後の曲「フー・ザ・キング」などは、この当時のワールド・ミュージックへの眼差しを反映しており、あいかわらずさまざまなスタイルの実験を繰り返すニールセンの懐の深さを感じます。Tレックスみたいと評される曲もありますし、いろいろと面白い人です。

 アルバムは米国でトップ40入りしましたし、日本でもオリコンチャートで21位を記録しています。そこそこ売れたわけですけれども、爆発的なヒットを放った後だけに、何となく峠を越えた感じもしたことは事実です。評論家筋の評価も真っ二つに分かれていました。

 そして、とうとうこのアルバムが発表された時にはトム・ピーターセンが脱退してしまっていました。バンドの方向性に疑問をもち、忙しすぎる状況に耐えられなくなったピーターセンはバンドを離れて自身のバンドを結成するのでした。よくある話ではありますが、残念ですね。

All Shook Up / Cheap Trick (1980 Epic)



Songs:
01. Stop This Game
02. Just Got Back
03. Baby Loves To Rock
04. Can't Stop It But I'm Gonna Try
05. World's Greatest Lover
06. High Priest Of Rhythmic Noise
07. Love Comes A-Tumblin' Down
08. I Love You Honey But I Hate Your Friends
09. Go For The Throat (Use Your Imagination)
10. Who D'King
(bonus)
11. Everything Works If You Let It グッド・タイムズ・バッド・タイムズ

Personnel:
Tom Petersson : bass
Robin Zander : vocal
Bun E. Carlos : percussion
Rick Nielsen : guitar, microphones, ivories