チープ・トリックが1980年6月に発表した珍しい10インチEPです。原題は「ファウンド・オール・ザ・パーツ」ですが、邦題はシングル・カットもされた収録曲のタイトル「デイ・トリッパー」となっています。私がレコード会社の担当者だったとしても同じことをしたと思います。

 日本で大人気のチープ・トリックはこの年の8月に来日することが決定しており、その来日記念盤的な位置づけで本作品とシングル盤「デイ・トリッパー」が発売されたのでした。なお、映画「ローディー」に提供した「グッド・タイムズ・バッド・タイムズ」もシングル発売されています。

 10インチとはいかにも企画盤っぽいですが、まさしく企画盤です。1979年にチープ・トリックが所属するエピック・レコードがNU-DISKなるレーベルを立ち上げ、その名前のごとく、一連の新しいアーティストたちの10インチ盤を発表しました。本作品はその一つです。

 このシリーズの作品はいずれもアメリカのグラフィック・デザイナー、ポーラ・シェアがジャケットを担当しているため、アーティストが異なっても統一感のあるものとなっています。結構力が入っていたことが分かりますが、わずか2年で頓挫、結局10作品ちょっとのリリースでした。

 中で成功したといえるのは、本作品とザ・クラッシュの「ブラック・マーケット・クラッシュ」くらいです。やはりCD化も間近でしたし、12インチ・シングルも流行りだしたので、このフォーマットは無理がありました。結局、再発に際しては他の作品のボートラ扱いが標準となりました。

 しかし、またまた日本がやってくれました。しっかりとオリジナルの形での再発が行われているんです。他の国では次作「オール・シュック・アップ」のボートラが標準なのに。やはり日本はチープ・トリックに格別の愛情を注いでいます。鼻が高いことです。

 EPも極めて充実した内容です。趣向としてはデビュー作を制作した1976年から1979年に至る4年間のそれぞれの年に録音された未発表曲を並べた形になっています。そして、A面はライヴ、B面はスタジオ録音という具合に分かれています。

 ジャケットにはチープ・トリックのロゴを地にして、1976から1979までの数字を書いた四枚のカードが並んでいます。裏返してみるとそれぞれのカードに書かれた年に録音された曲名とその年のバンドの写真が現れます。なかなか粋な企てです。

 まずは1979年のライヴでビートルズの「デイ・トリッパー」です。チープ・トリックのビートルズ・フリークぶりが分かる生きのいいライヴです。続く「キャント・ホールド・オン」が面白いです。彼らにしては珍しいスローなブルース曲です。何と武道館ライヴの未発表曲です。

 アナログではB面に移って、1曲目は「グッド・ガール」です。デビュー当時の曲ですが、何でこれが今まで未発表だったのか分からない名曲です。ロビン・ザンダーのボーカルが冴えるポップでハードな楽曲です。トム・ワーマン前夜の作品です。

 そして最後はこれまた意表をつくカントリー・タッチの「テイク・ミー・アイム・ユアーズ」です。チープ・トリックの引き出しの多さを思い知らせてくれる作品です。記載の録音年と実際に齟齬があるらしいですが、そんなことはどうでもよいと思わせる充実のEPです。

Found All The Parts / Cheap Trick (1980 Nu-Disk)



Songs:
01. Day Tripper
02. Can't Hold On
03. Such A Good Girl
04. Take Me I'm Yours

Personnel:
Tom Petersson : bass, vocal
Robin Zander : vocal, guitar
Bun E. Carlos : drums
Rick Nielsen : guitar, piano, vocal