チープ・トリックが絶好調だった時に発表された4作目のスタジオ・アルバム「ドリーム・ポリス」です。本当にこの頃のチープ・トリックには勢いがありました。シングル・カットもされたタイトル曲はその勢いを象徴するかのようなきらきらしたポップな名曲でした。

 ボーナス・トラックとしてこの曲のストリングスなしバージョンが収録されています。比べてみると、この曲での彼らのストリングスの使い方の妙が堪能できます。いやおうなくキラキラしたサウンドをちょっと妙な使い方のストリングスが作り上げているんですね。

 ロビン・ザンダーのボーカルもこの曲ではハイトーンです。ブレイクした後のシングルとして文句のない楽しくてポップでハードな曲ですけれども、歌詞はけっして脳天気なものではありません。そこがチープ・トリック、リック・ニールセンの一筋縄ではいかないところです。

 このアルバムはもともと前作から1年後となる1979年春に発表される予定でしたけれども、ちょうどその頃に彼らの武道館ライヴがアメリカで遅れてヒットしていたために発表が半年延期されたという何やら嬉しいような残念なようなことがありました。

 日本では初来日の余韻が冷めやらぬうちに発表した方がよかったのではないかと思いきや、さにあらず。アメリカで武道館ライヴが売れているというニュースのおかげでチープ・トリックの人気は盛り上がりを持続していましたし、この間に新たなファンも獲得していました。

 結果として本作品はオリコン・チャートでは4位となる大ヒットを記録しています。そして、レコード会社の思惑通り、アメリカでも6位にまで上る大ヒットとなりました。シングル・カットされたタイトル曲と第二弾の「ヴォイシズ」も全米トップ40ヒットとなっています。

 アルバムは3作連続でトム・ワーマンがプロデュースを担当しています。なんだかんだ言いながらもワーマンのプロデュースはチープ・トリックのヒット・ポテンシャルを見出したわけですから、バンドもここまではレコード会社の意向を汲んだのでしょう。

 とはいえ、武道館ライヴの思わぬ成功によってどんどんパワー・ポップな方向に進むのかと思いきや、このアルバムでは長尺の曲が2曲も含まれており、むしろ本格派ハード・ロックの方向にバンドの舵を切りつつある印象が強いです。

 ハードなギターのリフを繰り返す典型的なハード・ロック仕様な「ゴナ・レイズ・ヘル」、重めのドラムで始まるミディアム・テンポのヘビーな楽曲ながら、ちょっとドナ・サマーも入っている「ニード・ユア・ラヴ」がその長尺の2曲です。どちらも力が入っています。

 また、リック・ニールセンのみならず、他のメンバーの名前も作曲者にクレジットされることが多くなりました。ただし、あくまで共作者で、アイドル的な人気を博した美形二人ではなく、ニールセンが音楽的リーダーであることはもちろん続いています。そこが彼らの男性人気の秘訣ですし。

 突然にふってわいた大ヒットを受けても決して浮かれることなく、我が道を歩む姿がまぶしいです。レコード産業はどんどん成長を遂げていましたが、まだまだ牧歌的な時代でした。本作品はそんな時代の幸せな雰囲気をも感じさせるロックの傑作の一つです。

Dream Police / Cheap Trick (1979 Epic)



Songs:
01. Dream Police
02. Way Of The World
03. The House Is Rockin' (With Domestic Problems)
04. Gonna Raise Hell
05. I'll Be With You Tonight
06. Voices
07. Writing On The Wall
08. I Know What I Want
09. Need Your Love
(bonus)
10. The House Is Rockin' (With Domestic Problems) (live version)
11. Way Of The World (live version)
12. Dream Police (no strings version)
13. I Know What I Want (live version)

Personnel:
Robin Zander : vocal, guitar
Tom Petersson : bass, vocal
Rick Nielsen : guitar, mandocello, vocal
Bun E. Carlos : drum kit
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Jaime Winding : piano, organ