ピンク・フロイドが「時空を超え、神話復活。20年ぶりのニュー・アルバム」を発表しました。前作「対」から20年、その間、ベスト・アルバムやらボックス・セット、未発表ライヴとピンク・フロイドの新しいレコードは途切れることがありませんでした。そこにまさかの新作です。

 「エンドレス・リバー」、邦題を「永遠(TOWA)」と題された新作の投入は大きな事件となりました。ロックとともに歳を重ねてきた中高年を中心にとても喧しい事態となったんです。時の流れを感じます。20年前には生まれていなかった中高生は狐につままれたことでしょう。

 この新作は「最終章」とされています。2008年にオリジナル・メンバーのリチャード・ライトが他界しており、残された二人がこのアルバムを彼に捧げることでピンク・フロイドはその歴史に幕をおろしました。ライトは一時はバンドを離れていたのでやや釈然としませんが。

 ただし、この作品は新作としていますけれども、20年前の前作「対」の制作時に録音されていた素材を中心に編集した作品です。その意味では純然たる新作とはいいがたいところがあります。しかし、もちろん新たな演奏も加わっていますし、新作は新作に違いありません。

 元となった音源は、前作「対」の制作と並行して制作が進んでいたという幻のアンビエント作品「ザ・ビッグ・スプリフ」なる音源だそうです。ゆうにアルバム一枚分の素材が陽の目を見ることなく眠っていたわけです。それがここに衣装を変えて登場しました。

 ギルモアと並んでプロデューサーに名前を連ねているのは、元キリング・ジョークのユース、元ロキシー・ミュージックのフィル・マンザネラ、エンジニアのアンディ・ジャクソンの3人です。彼らがそのお蔵入りアルバムの見直しを勧めたんだそうです。いい仕事をしました。

 その結果に、ギルモアとニック・メイソンは「とても楽しくて満足できる経験だったと思う。失くした宝石が見つかったような感じに似ているね」と大喜びです。この言葉は、ピンク・フロイドのファンの心情も言い表しています。失くした宝石を見つけたんです。
 
 メイソンによれば、「僕らはジ・オーブのようなバンドが取り入れている一種のアンビエント・ムードの音楽に心を奪われてい」ました。確かにギルモアは2010年にジ・オーブと共演しています。彼らが言うところのアンビエントはジ・オーブのようなサウンドのようです。

 1時間足らずのアルバムは1曲を除いてインストゥルメンタル曲ばかりで構成されています。ジ・オーブとはリズムの感覚が異なるのであまりつながりを感じませんが、そのサウンドはアンビエントかと問われれば、確かにアンビエント的だというしかないでしょう。

 思えばピンク・フロイドのサウンドは昔からアンビエント的でした。広大な奥行きのある空間が時間と溶け合っているかのようなサウンドです。どこからどう聴いてもピンク・フロイド、そんなサウンドが最新テクノロジーで磨かれて輝いています。
 
 本当に時空を超えた年代不詳のピンク・フロイド・サウンドが聴こえてきます。とやかくいうのは野暮というもの。ピンク・フロイドの全歴史に思いを馳せながら聴くのが正しい聴き方でしょう。日本盤には歴代担当ディレクターの懐古記事が満載で、まさにお祭り状態です。

参照:CDジャーナル2014年12月号

*2014年12月26日の記事を書き直しました。

The Endless River / Pink Floyd (2014 Parlophone)



Songs:
01. Things Left Unsaid 追伸~伝心
02. It's What We Do 使命
03. Ebb And Flow 潮汐流
04. Sum サム~調和
05. Skins スキンズ~感触
06. Unsung 静かなる人~暗黙
07. Anisina 追慕~遥かなる想い
08. The Lost Art Of Conversation 失われた対話
09. On Noodle Street ヌードル・ストリートにて
10. Night Light 灯
11. Allons-y (1) 出発Part1
12. Autumn '68
13. Allons-y (2) 出発Part2
14. Talkin' Hawkin' トーキン・ホーキン~ホーキング博士の伝言
15. Calling 天の呼声
16. Eyes To Pearls 真珠を見つめる目
17. Surfacing 浮遊
18. Louder Than Words ラウダ―・ザン・ワーズ~終曲

Personnel:
David Gilmour : guitar, vocal, piano, organ, keyboards, synthesizer, bass, percussion
Nick Mason : drums, percussion
Richard Wright : organ, piano, keyboards, synthesizer
***
Guy Pratt : bass
Bob Ezrin : bass, keyboards
Andy Jackson : bass, effects
Jon Carin : synthesizer
Damon Iddins : keyboards
Anthony Moore : keyboards
Gilad Atzmon : tenor sax, clarinet
Durga McBroom : backing vocal
Louise Marshal : backing vocal
Sara Brown : backing vocal
Stephen Hawking : voice
Chantal Leverton : viola
Victoria Lyon : violin
Helen Nash : celllo
Honor Watson : violin
Youth, Eddie Bander, Michael Rendall : synthesizer, keyboards