ナクソスから発表されているアメリカン・クラシックス・シリーズの一つです。このシリーズはガーシュウィンやスーザからジョン・アダムズやフィリップ・グラスに至るまでアメリカのクラシック音楽を網羅する画期的なシリーズです。さすがはナクソスです。

 ジョン・ケージはアメリカのみならず、「ケージなくして、現代音楽はあり得ない」と言われる大作曲家ですから、このシリーズにも欠かせません。これまで7作品が出されており、そのうちの3枚が「2種の鍵盤楽器のための作品集」です。本作品はその第2集です。

 この3枚はいずれもイギリスのクセニア・ペストヴァとルクセンブルクのパスカル・マイヤーという二人のピアニストによるペストヴァ/マイヤー・ピアノ・デュオによる演奏です。写真を見る限り、まだ若い二人はデュオでの活動を活発に行っており、高い評価を得ています。

 とりわけ2010年にデュオで録音したシュトックハウゼンの「マントラ」の評価が高いです。二人は現代音楽を精力的に演奏しており、ジョン・ケージの曲を演奏するにふさわしいデュオということができます。それゆえにナクソスから指名されたものと思われます。

 本作品には2つの曲が収録されています。まず一つは1984年から87年の間に作曲された「2のための音楽」です。「2」としているところは実はブランクになっており、もともとはどんな楽器のどんな編成でも対応できる曲で、その時に使う楽器と編成をそこに当てはめるそうです。

 ここでは単純にピアノが2台なので、「2」と記載されています。とてもケージらしい曲で、よくもまあデュオで演奏できるものだと驚きます。というのも、ここでは音の連なりを編んでいくのではなく、最初に時間を決めてそこに音を割り振っていくような作曲がされているんです。

 音がつながって時間が発生するのではなく、時間が先にある。それぞれにはまるのは音かそうでなければ沈黙です。絶対音感ならぬ、絶対的な時間感覚がないと演奏できないのではないかと思います。音楽家にとってはそんなに難しいことではないのでしょうか。

 ピアノの弦をこするような音も入っており、いいアクセントになっています。音と沈黙の間合いが緊張感を連れてきます。メロディーやリズムを楽しむというよりも、時間を楽しむ、そんな聴き方が頭の中をクリアにしてくれます。いい曲です。

 もう1曲は1945年に発表された「2台のプリペアド・ピアノのための『3つのダンス』」です。こちらはプリペアド・ピアノによる打楽器アンサンブルのような作品で、「2のための音楽」とは異なり、ぎっしりと音が詰まっています。しかも3つの楽章からなる分かりやすい構造です。

 ケージはまだ20代の頃にダンスのための音楽を依頼されましたが、会場が狭かったために得意のパーカッション・アンサンブルが使えず、ピアノ1台で演奏することを強いられて、プリペアド・ピアノを着想したのだといいます。この曲はその最初期の曲です。

 ダンスのための曲と聞いて全く違和感がありません。ジャワ島のガムラン音楽のようなアンサンブルを二人のプリペアド・ピアノで現出させており、聴きごたえがあります。目の前で誰かが踊っているような楽しさです。演奏している二人もさぞや楽しかったことでしょう。

John Cage : Works for Two Keyboards 2 / Pestova Meyer Piano Duo (2014 Naxos)

演奏者違い


Songs:
John Cage:
01. 2のための音楽
02.-04. 2台のプリペアド・ピアノのための「3つのダンス」

Personnel:
Xenia Pestova : piano
Pascal Meyer : piano