私の頭の中には1970年代ロックの部屋があるようで、チープ・トリックのセルフ・タイトルのデビュー作を聴いていますと、その部屋が喜びで震えます。私の中ではこのアルバムで聴かれるサウンドは幸せな1970年代の象徴です。たまたま私の10代と一致するのですが。

 チープ・トリックは長く活動を続けることになりますが、デビューに至るまでも結構なキャリアを重ねています。中心となるリック・ニールセンとトム・ピーターソンは1969年には早くもメジャー・デビューしており、そこから数えてもこのデビュー作まで8年かかっています。

 紆余曲折を経ながらも、バーニー・カルロスとロビン・ザンダーを加えたラインナップが固まると、中部アメリカの主にバーなどで精力的に演奏を続け、同時にデモ・テープをせっせと作っていきます。その努力のかいあって1976年になってエピック・レコードと契約をものしました。

 本作品はエピックから発表されたバンド名を冠したデビュー・アルバムです。当時は失敗作として受け止められていたようで、全米チャート入りすることすらありませんでしたけれども、比較的評論家受けはよく、今では傑作と評する人も多いです。

 プロデューサーに起用されたのは一連のエアロスミス作品で名をあげたジャック・ダグラスです。アルバムのサウンドはダグラスの名前から了解されるように、重めの1970年代ハード・ロック路線です。キャッチーな曲をハードに演奏する、まさに70年代です。

 ニールセンはブリティッシュ・ロックに造詣が深く、しっかり研究してバンド活動に臨んでおり、その成果はここにも遺憾なく発揮されています。ビートルズ、ザ・フー、ザ・ムーヴ、キンクスなど、本作を語る際にブリティッシュ・ロックのビッグ・ネームが引き合いに出されるんです。

 ビートルズのメロディーをザ・フーばりに演奏し、そこにザ・ムーヴやキンクスの一ひねりしたユーモアをまぶしたサウンド、そんな言われ方がされる。これはもう好きにならずにはいられないというところです。キャリアも長いので演奏もベテランですし。

 一方で、彼らはバンド名をスレイドのライヴへの関連で思いついたとのことで、そのチンピラぶりも十分に咀嚼しています。この時代、ロック・スターは遠い存在になりつつありましたが、チープ・トリックはファンとの距離感がちょうど良い感じでした。

 アルバムはご挨拶ソング「エロ・キディーズ」で始まると、キャッチーかつハードなロックが続きます。私は「タックスマン・ミスター・シーフ」が一押しですが、どの曲も捨てがたいです。よく聴くと小児性愛のことを歌っていたりして、一筋縄ではいきませんし。

 この作品、発売当時はジャケットがパンクっぽかったので、アメリカのパンク・バンドなのかと思っていました。彼らは本国アメリカよりも日本で先に人気が出たバンドですけれども、本作品はまだデビュー作ですから、そこまで爆発的な人気となったわけではありません。

 むしろ、ニールセンの野球帽に蝶ネクタイ、目の玉をかっと見開いた変人キャラクターが悪目立ちして、何だか変なバンドだなと思った人が多いのではないでしょうか。キッス、エアロスミスに続くアメリカン・ロックの星には違いありませんでしたけれども。

Cheap Trick / Cheap Trick (1977 Epic)



Songs:
01. Elo Kiddies
02. Daddy Should Have Stayed In High School
03. Taxman, Mr. Thief
04. Cry, Cry
05. Oh, Chandy
06. Hot Love
07. Speak Now Or Forever Hold Your Peace
08. He's A Whore
09. Mandocello
10. The Ballad Of TV Violence (I'm Not The Only Boy)
(bonus)
11. Lovin' Money
12. I Want You To Want Me 甘い罠
13. Lookout
14. You're All Talk
15. I Dig Go-Go Girls

Personnel:
Rick Nielsen : guitar, vocal
Tom Petersson : bass, vocal
Robin Zander : vocal, guitar
Bun E. Carlos : drums