ジャケットが話題になりました。ロンドンのテムズ河畔にあるバターシー発電所の上空に豚が浮かんでいます。私はこの発電所を通勤電車から眺めておりましたが見飽きるということがありませんでした。1930年代に建てられたヨーロッパ最大のレンガ建築です。

 この豚は本当に飛ばされています。最終的には合成されていますが、豚も実写ではあります。後日談があります。撮影後に回収に失敗して豚が飛んでいってしまい、いろんな飛行機から「豚が飛んでいる」と報告が入ったそうです。いい話です。

 本作品はピンク・フロイドの10枚目のアルバムです。1位こそ逃したものの、前作同様に日英米で大ヒットとなりました。ただし、「狂気」ほどの破壊力はありませんでしたし、時代はパンクに席巻されつつありましたから、どこか影が薄い印象を与えるアルバムです。

 しかし、すべての曲に動物の名前が冠されているという、統一感あふれるアルバムではあります。発売当時の邦盤のキャッチコピーが振るっています。「混迷する現代の福音たるか?ピンク・フロイドが世に問う、『現代版・鳥獣戯画』の世界とは!?」。

 さまざまな人間を動物に例えて社会批判を繰り広げているということですけれども、やはり鳥獣戯画は違うのではないでしょうか。前作でやらかしたCBSソニーの再びの勇み足でしょう。どうもピンク・フロイドを前にすると気合が入り過ぎてしまうんでしょうね。

 本作品を久しぶりに聴いてみて、改めて実質3曲であることに驚きました。豚が犬と羊を挟みこんでいる構造です。豚は資本家、犬がエリート・ビジネスマン、羊が平凡な労働者とされているようで、資本家の出番が多いところに彼らの姿勢が現れています。

 こうしたコンセプトを展開する歌詞は今回もロジャー・ウォーターズが書いています。さらに作曲のクレジットも「犬」を除いてすべてがロジャー単独名義です。その「犬」もデヴィッド・ギルモアとの共作で、ギター・ソロがたっぷり入っているがゆえの共作だと思われます。

 その「犬」のギター・ソロもロジャーは制作過程で一度誤って消してしまったという話も伝わっています。確かに前作の「狂ったダイアモンド」のソロの素晴らしさには及びませんし、ギルモアの持ち味が発揮されているとはいえ、どこか座りが悪い気がします。

 というわけでロジャー色が圧倒的に濃くなってきました。アコースティック色が強まり、サウンドも直截で、ますますシンガー・ソングライター的なアルバムになってきています。プログレッシブ・ロックの定義だった人達なのに、どんどんプログレ色が後退しています。

 自分たちがこれまでに作り上げてきた音の世界から、逃れるべく格闘しているかのような風情です。社会と対峙したアルバム・コンセプトですけれども、広い社会と向き合っているというよりも、自分たちの直面する身の回りの葛藤を描いている気がします。

 もちろんピンク・フロイドのことですから決して駄作などではありません。勃興しつつあったパンクが最も目の敵にしたはずのゆったりしたリズムを堂々と貫く姿勢は見事ですし、ピンク・フロイドへの幻想を抜きにして聴けばこれまた素敵なアルバムであると思います。

*2012年4月20日の記事を書き直しました。

Animals / Pink Floyd (1977 Harvest)



Songs:
01. Pigs On The Wing 1 翼を持った豚1
02. Dogs
03. Pigs (Three Different Ones)
04. Sheep
05. Pigs On The Wing 2 翼を持った豚2

Personnel:
Nick Mason : drums
Roger Waters : bass, vocal
David Gilmour : guitar, vocal
Richard Wright : keyboards