日本のパンク/ニュー・ウェイブ・シーンにおいて重きをなした佐藤薫が主催するレーベル、フォノンから発表された「三者相乗するインダストライバル・ユニット」、マッドロムのファースト・アルバムです。この表現だけで通じる人には通じる作品でしょう。

 「三者相乗する」とされている通り、本作品はトリオによる作品です。いずれも「関西を中心に80年代より現役で活動を続ける三者の出会いから結成されたユニット」ですから、まさに出発点はパンク/ニュー・ウェイブの時代。フォノンらしいユニットです。

 まず一人目はユン・ツボタジ。京都出身のパーカッショニストで、1982年に佐藤薫のEP-4に加入して以降、これまでにその全作品に参加しています。一方で、ソロ名義や自身のユニットでの活動も多く、一度聞いたら忘れないその名前とともに印象に残っています。

 続いてルビオラは、1983年より音楽活動をスタートさせた京都在住の電子音楽家で、アンビエント・ユニットやソロ名義での活動を続けてきました。電子雅楽バンドのリーダーも務めてフジロックなどに出演するなど、この人も幅広い活動を続けています。

 もう一人はアートハンドで、「関西を代表するラテン系パーカッショニスト&ドラマー」と紹介されています。面白いことにSMAPの「がんばりましょう」のパーカッションを演奏するなど、メジャーとアンダーグラウンドを縦横無尽に駆け抜ける人です。

 ツボタジとルビオラは2015年にユニット「hi-karim-on」を結成しており、黒いインダストリアル・ミュージックを目指して活動していました。2018年、そこにアートハンドが即興で参加したことで、マッドロムが誕生しました。バンドとしての強度が上がったということです。

 ユニット名はモダン・アルティメット・ドラムス+リアクト・オンリー・ミームスの頭文字集となっています。「現代における究極のドラムはミームにのみ反応する」という意味だそうです。彼らの目指すインダストリアル+トライバル、インダストライバルの別角度からの説明です。

 インダストリアルと聞いて真っ先に思い浮かぶのは工場の騒音です。ここにトライバルとなると呪術的な繰り返されるリズムが思い浮かびます。この作品ではメタル・パーカッションが多用され、なるほどと膝を打つインダストライバルっぷりです。

 このインダストリアルな究極のリズムがミームとなって、そこに反応する人々をトライブとして浮かび上がらせるということなのでしょうか。インダストリアルなビートにはそうした力がある気がいたします。ライヴはさぞかし盛りあがることでしょう。

 そのインダストライバルなサウンドはとても気持ちが良いものです。1980年代前半から活動を続けているトリオが作り出すサウンドとして素直に合点がいくもので、昔から変わらぬ精神にどこかほっこりとしたものを感じます。とにかく耳に心地よい。

 まるでテレビCMで流れていてもさほど違和感がないように思われる最後の曲「ニュー・ビルディング」に至るまで、耳に馴染むビートによる分かりやすいインダストリアルな呪術サウンドが続きます。私にとってはとても懐かしいサウンドです。

The End Of The Loop / M.U.D.R.O.M. (2021 φonon)



Songs:
01. Chronological Revenger
02. The End Of The Loop
03. The Change Operation
04. PASS-AGE
05. Lead Beat
06. Uranium Cube
07. Noble Savage
08. New Building

Personnel:
Yung Tsubotaj : percussion, metal percussion, grinder
Arthand : drums, percussion, metal percussion
Rubyorla : electronics, additional instruments