ピンク・フロイドの6作目「おせっかい」は初めて4人だけで仕上げた作品です。前作もセルフ・プロデュースでしたけれども、ロン・ギーセンのオーケストレーションが果たした役割が大きく、4人だけで制作したとは言い難い状況であったようです。

 この作品は英国では1位を逃しており、ロジャー・ウォーターズは怒っていたようです。怒ってもしょうがないのですが。しかし、アメリカでは70位とチャート入りしていますし、ここ日本ではトップ10入りするヒットを記録しています。日本でのブレイク作品です。

 日本ではアルバム人気に乗じたのか、人気プロレスラーの黒い呪術師アブドゥーラ・ザ・ブッチャーの入場テーマ曲に本作品の冒頭の1曲「吹けよ風、呼べよ嵐」が選ばれたことでさらに有名になりました。当時はプロレスはゴールデン・タイムに放映される一大娯楽でした。

 この結果、この曲は日本ではシングル・カットされ、チャート入りしています。当時、プロレスに夢中になっていた私としても、なぜにピンク・フロイドと首をひねりながらも、ジャイアント馬場やザ・ファンクスとブッチャーの名勝負の数々を眺めておりました。

 ただし、本作品の目玉は何といってもB面全部を占める大作「エコーズ」です。私にとってもピンク・フロイドの楽曲の中で一、ニを争う大好きな曲です。23分にも及ぶ大作は前作「原子心母」のタイトル曲と同じ趣向ではありますが、こちらはしっかりロックしています。

 聴きようによってはまことにシンプルな曲なのですが、冒頭の「ピーン」という音から、オルガンやベース、ドラムにギターの音とすべてに細やかな神経が行き届いていて聴かせてくれます。もわーっとした音響が得も言われぬ快感につながって、とにかく気持ちが良いです。

 しかし、大たい途中で緊張が途切れる瞬間がやってきます。この曲は意外なことに、36にもおよぶサウンド・パートを紡いで仕上げたのだそうです。それを聞くと全体の構成に少し無理があるのも分かる気がします。そこも含めて面白い曲ではあります。

 一方、A面には短めの曲が5曲。勇壮なインストゥルメンタル「吹けよ風、呼べよ嵐」、ロジャース&ハマースタインのミュージカル「人生はひとりではない」を使用した「フィアレス」、飼い犬シーマスの鳴き声を使った曲「シーマスのブルース」などなど。

 こうした曲を聴いていると、もともと、特にテーマを決めることもなく、アイデアもまとまっていない状態でスタジオ入りして、いろんな実験をやってみた末にできたアルバムだという話にすんなり合点がいきます。とにかくまとめてしまうところはさすがというしかありません。

 今回はメンバー各自が曲を作る方式はとっておらず、ロジャーとデヴィッド・ギルモアを中心に全員で作り上げています。そうした作りだけに地金が出ているようにも思います。この後しばらくのピンク・フロイド・サウンドは「エコーズ」というよりもA面の路線です。

 本人たちはこのアルバムのことをあまり良く語っていません。レコード会社のプレッシャーで思ったように時間をかけられなかった模様です。ただし、大たいアーティストはそういう風に言うものです。無責任を承知でいえばこの作品のように少し隙があるくらいの方が面白いです。

*2012年4月7日の記事を書き直しました。

Meddle / Pink Floyd (1971 Harvest)



Songs :
01. One Of These Days 吹けよ風、呼べよ嵐
02. A Pillow Of Winds
03. Fearless
04. San Tropez
05. Seamus シーマスのブルース
06. Echoes

Personnel:
Roger Waters : bass, vocal
David Gilmour : guitar, vocal
Nick Mason : percussion
Richard Wright : keyboards, vocal