米フォーブス誌の企画「世界を変える30歳未満の30人」に選出されたこともあるジョン・バティステがいよいよ世界を変え始めました。少なくともメジャー第二作となる本作品はグラミー賞最多となる11部門にノミネートされていますから、グラミー賞の世界は変えました。

 バティステにとって音楽活動と社会活動は不可分に結びついています。「ラヴ・ライオッツ」と呼ぶ音楽を中心とした抗議活動を10年以上も世界中で続けているんです。まだ若い身空でなかなかできることではありません。素直に頭が下がります。

 本作品のタイトル曲「ウィー・アー」は2020年6月にニューヨークで行われた行進のタイトルにもなった曲です。「まず本物のファンクのリズムから始まり、その上にのせるハーモニーとして、なぜか中東風テイストのものが自然に浮かんできた」と、そのふたつを融合させます。

 そこに、「祖父が長老を務める教会の聖歌隊、ゴスペル・ソウル・チルドレン・クワイアと、僕の出身高校のマーチングバンドに参加してもらいました」という楽曲です。ブラック・ミュージックのエッセンスを濃縮したような強度の高い素晴らしい曲です。

 クインシー・ジョーンズはライナーノーツでデューク・エリントンの言葉を紹介しています。「音楽には二つの種類しかない。いい音楽とそうでない音楽だ」。そして、音楽のカテゴリーを取り払うことに成功した数少ないアーティストの一人としてバティステを称えています。

 実際、このアルバムを聴いた後で、バティステが一般にジャズの人だと言われていることを知って驚きました。言われてみればジャズでもありますし、じゃあ何なんだと問われると、レスター・ボウイの「グレイト・ブラック・ミュージック」を持ち出す以外ありません。

 本人は「ソーシャル・ミュージック」と位置づけており、「そこにはジャンルという考えは存在しません」。そしてソーシャル・ミュージックは「音楽が商業化される前の、日々の出来事を表現していた時代の音楽とルーツが同じだと思っています」とのことです。

 バティステのこのアルバムを聴くと、彼の言葉に納得するしかありません。出てくるサウンドがとても生々しくて、生活に密着しています。距離が近いんです。ステージで演奏するというよりも、ストリートを一緒に歩きながら聴いている感覚です。

 そんなラフな感覚である一方で制作にはもちろん隅々まで気が配られています。プロデューサーには今をときめく御仁が並んでいますし、マルーン5のPJモートンやジャズ界で注目されているトロンボーン・ショーティなどの豪華ゲストも参加しています。

 最高のチームに支えられて作り出したジャズ、R&B、ファンク、ポップス、ヒップ・ホップなどを軽々と横断するサウンドは何よりもハッピーです。コロナ禍とブラック・ライヴス・マターの最中で問題に真摯に向き合った結果としてのハッピーは深いです。

 レコード会社のコピー「あなたにこそ聴いてほしい、と全員に言える。笑って、踊って、泣いて、笑う。2021年、最高のエンパワーメント・アルバム誕生!」には納得です。私としてはブラック・ミュージックを聴いてきたあらゆる年代の人に聴いてほしいです。

参照:「『ソウルフル・ワールド』で注目を浴びるジョン・バティステが語る新作『We Are』と音楽での抗議活動」(udiscovermusic.jp) 

We Are / Jon Batiste (2021 Verve)



Songs:
01. We Are
02. Tell The Truth
03. Cry
04. I Need You
05. Whatchutalkinbout
06. Boy Hood
07. Movement 11'
08. Adulthood
09. Mavis
10. Freedom
11. Show Me The Way
12. Sing
13. Until

Personnel:
Jon Batiste : vocal, piano, bass, keyboard, moog bass, thuman, fender rhodes, mellotron, synth strings, drum machine, wurlitzer, 8 bit synth, clavinet, cowbell, tambourine, bongos

drum programming : Pomo, Kizzo, DJ Khalil
programming : Rickey Reed
drums : Nate Smith, Josh Adams, James Gadson, Steve Jordan, Harry Cook, Joe Saylor, Victor DiMotsis
percussion : Victor DiMotsis, Andre Sims, Joe Saylor, Nete Mercereau, Andres Renteria
guitar : Cory Wong, Nick Waterhouse, Steve McEwan, Louis Cato, Zach Cooper, Mikey Freedom Hart, Robert Randolph
bass : Eliana Athayde, Endea Owens, Zach Cooper, Kizzo
keyboards : Sam Yahel, Andrae Alexander, Mikey Freedom Hart, Nate Mercereau, Kizzo, Jahaan Sweet, Craig Adams
sax : Jim Jediken, Ron Dziubla, Louis Fouché, Andrew Calhoun,
trumpet : Mark Pender, Alvarez Huntley, Christopher Cotton, Giveton Gelin, Nolen Shaheed, Nate Mercereau
trombone : Troy Andrews, Larry Brown, Tyrus Chapman, Trombone Shorty
flute : Albert Allenback, Marcus Miller
sousaphone : Bennie Pete
cello : Kevan Torfeh
viola : Kiara Perico*, Laurann Angel
violin : Koyo Kim, Michelle Tseng, Simone Deleon-Jones, Yu-Ting Wu
vocal : Tarriona 'Tank' Ball, Autumn Rowe, Marcus Miller, Craig Adams, Braedon Gautier, Brennan Gautier, David Gauthier, PJ Morton
spoken word : Mavis Staples, Zadie Smith
backing vocal : Carol Hatchett, Roberta Freeman, Emily King, Victor DiMotsis
strings : Michelle Ross
Gospel Soul Children
St. Augustine High School Marching 100
Hot 8 Brass Band
Mardi Gras Indian Show