米国インディ界の至宝ディアフーフの創作意欲は何年たっても一向に衰えることがありません。ボーっとしているとディアフーフの新しいアルバムに気づかないままになってしまいます。この作品は日本仕様輸入盤も発表されており、無事に私のもとにも届きました。

 当然のことですが、コロナ禍はディアフーフをも襲いました。2020年にはツアーに出ることもままならず、メンバーは長らく一緒にプレイすることができませんでした。そうなると、各自が制作するデモ音源も作り込みが激しくなっていくのは必然です。

 そんな時にサトミ・マツザキは決然と、新作には2本のギターとベース、ドラム、それだけしかいらない、と宣言します。ステージで演奏可能で、聴衆を微笑ませて踊らせることを目指すことになりました。レディオヘッドやレッチリと一緒に立った舞台を思い出したわけです。

 とはいえ実際に四人でスタジオ・ライブを行ったわけではありません。複雑になってしまった各自制作のデモをグレッグ・ソーニエーがアレンジし直したものに従って各自が自身のパートを宅録してグレッグに戻し、それをグレッグがミックスする手法が使われました。

 制作手法の種明かしをされなければスタジオ・ライヴかなと思わないではありません。クレジットにはレフト・ギターがエド・ロドリゲス、ライト・ギターがジョン・ディートリッヒとあり、見事に四人それぞれが恐らく一回ずつ演奏したものを重ねただけということが分かります。

 こうして疑似ステージを繰り広げる作品が完成しているわけです。グレッグは「何週間もかけて一緒に演奏することを想像していたので、ほとんど偽物の記憶になってしまった」と述懐しています。メンバー全員が本当に一緒に演奏したことに記憶を上書きしていることでしょう。

 一方、本作品の制作にあたっては「DIYバロック」というコンセプトが用意されました。「私たちは自身の労働者版ハイブロウが欲しかったんだ。オペラの栄華ときらめきがいっぱいのハイブロウが」とグレッグは語っています。それがお手製バロックなんですね。

 そのコンセプトでデモを作れば、それは当然複雑になることでしょう。コンセプトは残しつつも、サトミの英断でDIY部分が強調されてそぎ落とされたサウンドになった様子がうかがえます。さすがはディアフーフ。自らのアプローチに自覚的です。

 バロック・コンセプトは、アルバムのあちらこちらに顔を出すバロック風メロディーに端的に表れています。妙にきっちりしている部分があって耳を持っていかれます。シンプルな楽器構成だけに面白いです。サトミのボーカルはバロックの合唱と相性が結構よいですし。

 米国のインディらしいサウンドは健在で、シンプルに楽器が絡み合う生々しいサウンドには、ロドリゲス由来のメキシコ・ルーツもほの見えて、バロック風味との間で火花が散ります。実に豊かなサウンドです。ディアフーフはやはり米国インディ界の至宝です。

 加えて賞賛すべきは政治的な姿勢をさらに鮮明にしていることです。政治に無関心でいられる仕合せな時代は米国でも日本でも過ぎ去っており、沈黙は体制を無批判で受け入れることだというディアフーフの主張はますます重要になってきています。かっこいいです。

Actually, You Can / Deerhoof (2021 Joyful Noise)



Songs :
01. Be Unbarred, O Ye Gates Of Hell
02. Department Of Corrections
03. We Grew, And We Are Astonished
04. Scarcity Is Manufactured
05. Ancient Mysteies, Described
06. Plant Thief
07. Our Philosophy Is Fiction
08. Epic Love Poem
09. Divine Comedy

Personnel:
Satomi Matsuzaki : bass, vocal
Ed Rodriguez : guitar
John Dieterich : guitar
Greg Saunier : drums, vocal