ロック界の超ビッグ・ネーム、ピンク・フロイドのデビュー・アルバムです。出発時点のメンバーは、ベースのロジャー・ウォーターズ、キーボードのリック・ライト、ドラムのニック・メイソンの同級生トリオにギターのシド・バレットを加えた4人でした。

 そんな成り立ちであるにも係わらず、初期のフロイドはシド・バレットのワンマン・バンドでした。ロジャーは「シド以外のメンバーは誰でもよかった」と後々大げさに語っています。実際、この作品に収録された11曲のうち、実に8曲がシドの作品です。

 ピンク・フロイドは活動を開始すると、ロンドンのアンダーグラウンド・シーンでライティングを駆使したサイケデリックなライヴで人気を呼ぶようになります。このデビュー・アルバムも最初の邦題は「サイケデリックの新鋭」ですから、押しも押されもせぬサイケデリックです。

 サイケデリックを連呼してしまいましたけれども、私などは「ピンク・フロイドこそサイケデリックである」と学んできた経緯がありますから仕方がありません。彼ら自身も本場米国から学んだ人たちですから、本場よりもザ・サイケなのではないでしょうか。

 ザ・サイケらしいことに、明らかに音楽的なリーダーだったシドはLSD摂取のせいでおかしくなったためにこのアルバムの後、次第にフロイドを離れていきます。カリスマ的な魅力あふれるシドですから、このあたりのこともロック界の伝説として語り継がれていきます。

 シドがほぼ本作限りだったことから、この作品「夜明けの口笛吹き」は次作以降のフロイドとまるで異なると言われがちです。確かに、構成として3分程度のフォーク調の曲が多い点では後続のアルバムととても分かりやすく一線を画しています。

 しかし、ピンク・フロイドはまだ新人です。先行したシングル「シー・エミリー・プレイ」のヒットと当時のロック界の常識からして、新人バンドのアルバムが制作側の要請でそうなるのは仕方のないことです。シドにはそういう曲を書く才能もありましたし。

 他のメンバーはアルバムの出来栄えには不満が残ったようですし、ライヴを見に来ていたファンも満足していなかったと言われています。しかし、アルバムは英国では6位になる大ヒットを記録しています。一般的には受けが大変良かったということです。

 しかし、アルバムには3分の曲ばかりではありません。後のフロイドのサウンドにそのままつながる「天の支配」や「星空のドライヴ」はやはりアルバムの中心にどっかと腰を下ろしています。前者はシドの曲で後者はメンバー全員によるインストゥルメンタルです。

 その「星空のドライヴ」の素晴らしいこと素晴らしいこと。建築学校の同級生だった三人は楽器のマエストロというわけではなく、まるで建築のように全体サウンドを構築するに卓越した才能を発揮する人たちです。そこにサイケデリックなシドの自由なギター。かっこいいです。

 シドのソロにつながるとても妖しいポップな曲と、後のフロイドの作品につながる、サイケデリックなライヴを彷彿させる長尺の曲が塩梅よく配されていて、ピンク・フロイドが歴史に一歩を刻むに相応しい特異な傑作になっています。忘れられないアルバムの一つです。

*2012年3月26日の記事を書き直しました。

The Piper At The Gates Of Dawn / Pink Floyd (1967 Columbia)



Songs :
01. Astronomy Domine 天の支配
02. Lucifer Sam
03. Matilda Mother
04. Flaming
05. Pow R. Toc H.
06. Take Up Thy Stethoscope And Walk 神経衰弱
07. Interstellar Overdrive 星空のドライブ
08. The Gnome 地の精
09. Chapter 24 第24章
10. The Scarecrow 黒と緑のかかし
11. Bike

Personnel:
Syd Barrett : guitar, vocal
Roger Waters : bass, vocal
Richard Wright : organ, piano, vocal
Nick Mason : drums