中学高校時代のクラスメートを、雑誌のヌードグラビアで見かける、というのは何とも心を乱される光景です。ましてや憧れの少女であったとすれば、一日や二日では立ち直れない衝撃を受けることでしょう。今やAV女優が10万人とも言われる時代。ありうる話です。

 J・ガイルズ・バンドの1981年作品「フリーズ・フレイム」からシングル・カットされた「堕ちた天使」は、まさにその光景を描いています。ヌードになったら「堕ちた」と決めつける邦題はよくありません。原題は素直に「見開きグラビア」。淡々として余計に葛藤が際立ちます。

 もともと予定はなかったのに、レーベルの社長がシングル・カットを主張したのだそうです。さすがは社長、見事に全米1位に輝きました。しかも6週連続です。彼らに冷たかったイギリスでもトップ10入りしましたし、日本でもしょっちゅうテレビから流れてきました。

 歌詞の全面的な勝利と言ってよいでしょう。もちろんセクシーなMVも評判になりましたけれども、私はあまり好きではありません。あまりにアメリカが強すぎて感情移入ができません。歌詞は分かりやすいんですけどねえ。最後は♪買いに行かなきゃ♪ですし。

 シングル・ヒットに引っ張られるようにアルバムもヒットし、J・ガイルズ・バンドにとっては初めての全米ナンバーワン・アルバムとなりました。これまではセカンド・アルバム「ブラッドショット」の10位が最高でしたから、これは快挙です。しかも4週連続です。

 セカンド・シングルの「フリーズ・フレイム」も4位と大ヒット、さすがに三枚目のシングル「悲しみのエンジェル」は40位どまりでしたけれども、それでも彼らのチャート史からすれば大ヒットです。そもそもアルバム・セールスも本作品が突き抜けています。

 本作品もセス・ジャストマンのプロデュースです。曲はすべてオリジナル曲ですが、これまでの作曲クレジットはウルフ=ジャストマンであったのに対し、本作品では二人が別々に表記されるようになりました。共作が4曲、ジャストマン単独が5曲です。

 サウンドは前作に比べるとかなり多彩です。ホーンにランディ・ブレッカーを始め、6人のゲストが招かれ、バッキング・ボーカルにも久しぶりにルーサー・バンドロスやシシー・ヒューストンなどが呼ばれています。それにストリングスを加え、ジャストマンはアレンジし放題です。

 「去って行く女」のアウトロ部分で流れるストリングスはかなり安っぽくてB級な感じです。コーラス陣が活躍する「リバー・ブラインドネス」は実験的な試みですが、80年代特有のピコピコ・シンセが登場します。どの曲も一癖も二癖もあるアレンジとなっています。

 しかし、「堕ちた天使」のイントロのようにマジック・ディックのハーモニカは素晴らしいですし、何とも泥臭いバラード「悲しみのエンジェル」などで聴かれるピーター・ウルフの骨太ボーカルはかっこいいです。J・ガイルズのギターもいろいろな顔を見せてくれます。

 ここのところ追求していたブルース魂を残しながらのポップ路線による、泥臭さくていかがわしいポップなロックはここに極まりました。もはやぎりぎりのところに立っていて、少しでも動けば落ちてしまいそうな気配が漂います。そんなところが愛おしいアルバムです。

* 2013年1月31日の記事を書き直しました。

Freeze Frame / The J. Geils Band (1981 EMI)



Songs :
01. Freeze-Frame
02. Rage In The Cage 閉ざされた怒り
03. Centerfold 堕ちた天使
04. Do You Remember When 去って行く女
05. Insane, Insane Again 狂気の季節
06. Flamethrower 炎の女
07. River Blindness
08. Angel In Blue 悲しみのエンジェル
09. Piss On The Wall

Personnel :
Peter Wolf : vocal
Seth Justman : keyboards, vocal
Magic Dick : harmonica, sax
J. Geils : guitar
Daniel Klein : bass
Stephen Bladd : drums, vocal
*****
Randy Brecker, Ronnie Cuber, Lou Marini, Tom Melone, Alan Rubin, George Young : horns
Luther Van Dross, Fonzi Thornton, Cissy Houston, Tawatha Agee, Kenny Williams : chorus
Cengiz Yaltkaya : conductor
Gene Orloff : concertmaster