ノイ!の二人は前作発表後、それぞれ別の道を歩み始めていました。ミヒャエル・ローターはクラスターと合流してハルモニアとして活動を始めましたし、クラウス・ディンガーは自分のレーベルを始めており、さらにラ・デュッセルドルフを結成する準備を行っていました。

 しかし、ローターによれば、「レーベルとの契約がアルバム3枚になっていたんだ」ということで、ノイ!は本作品のために再結集しました。思えば2枚目は「制作費が足りなくなったから」と驚異のB面ができました。外的要因にあっけらかんと軽く対応するノイ!です。

 この作品「ノイ!75」はノイ!のラスト・アルバムにして、最高傑作の評判を得ている作品です。ただし、そのA面とB面でわりとくっきり作風が違います。A面はローターのソロ作品に入っていてもおかしくありませんし、B面は後のラ・デュッセルドルフ風です。

 実際、B面にはクラウスの弟トーマスと昔からの友人でプロデューサーのコニー・プランクの助手をやっていたハンス・ランぺが加わっているのですが、クラウスとこの二人でラ・デュッセルドルフになっていくわけですから、当然といえば当然ではあります。

 A面はローターのアンビエント趣味が出ていますけれども、ノイ!の最大の特徴であるモータリック・ビートも健在です。ついついビートに注目が集まるので、クラウス主導だと思ってしまいますが、ファーストの「ハロガロ」のような軽みはローターの持ち味かもしれません。

 このA面で注目されるのは二曲目「ゼーランド」のギターです。ローターのソロ作につながるぽわんぽわんしたギターはデヴィッド・ボウイに影響を与えており、ボウイはベルリン三部作にローターの参加を希望していたという話が伝わっています。

 一方、B面はパンクです。特に一曲目の「ヒーロー」は後にパンクのプロト・タイプとして高い評価を受けます。ここではクラウスはドラムではなく、ギターをかき鳴らしてシャウトしています。ドラムを担当しているのはトーマスとハンスの二人、ツイン・ドラムです。

 このビートもまさにモータリック・ビートです。クラウスだけではなくトーマスも叩くわけですから、これはディンガー家に伝わるビートなのかもしれません。もっともハンスも採用しているので、方法論として自覚的にバンドが選びとったビートでありましょう。

 両面で作風は違いますけれども、やはり二人それぞれの後のアルバムとも微妙に違うノイ!独自のサウンドです。二人は目指す音楽の方向性の違いで別れてしまうわけですが、やはりお互いのことが好きなんでしょうね。一緒にはやりたくないけど、お互いがファン。

 デュオの状況としては満点とは言い難かったのでしょうけれども、ここには彼らのサウンドの一つの完成形があります。本当はもう少し一緒にやっていてほしかった。こんなかっこよくて気持ちの良い音楽はそうそう見当たりません。ノイ!は偉大なバンドです。

 なお、ジャケット内側のクラウスの写真はもうパンクスそのものです。クラウト・ロック、中でもカンとノイ!を聴いていたイギリスの若者がその影響を受けたサウンドでパンクの大きな花を咲かせるのはこのアルバムのわずか1年後のことです。歴史は動きました。

* 2012年5月15日の記事を書き直しました。

Neu! 75 / Neu! (1975 Brain)



Songs:
01. Isi
02. Seeland
03. Leb' Wohl
04. Hero
05. E. Musik
06. After Eight

Personnel:
Michael Rother : guitar, keyboards, vocal
Klaus Dinger : drums, guitar, vocal
Thomas Dinger : drums
Hans Lampe : drums