J.ガイルズ・バンドはついにアトランティック・レコードを去り、EMIアメリカに移籍しました。本作品「サンクチュアリ(禁猟区)」は彼らの移籍第一弾です。その状況が示唆する通り、心機一転してまき直しを図ったすがすがしいアルバムになりました。

 まずバンド名をJ.ガイルズ・バンドに戻しました。ガイルズでは何のバンドか分からないですからね。彼らの場合はやはり「バンド」がついていて初めてしっくりきますし、Jの一文字がブルースっぽい佇まいを醸していましたからこれも戻ってよかったです。

 さらに再び外部プロデューサーを起用しました。今回はビル・シムジクではなく、ボズ・スキャッグスの大傑作「シルク・ディグリーズ」をプロデュースしたことで知られるジョー・ウィザートが起用されました。エンジニアは前作同様にデイヴ・ソーナーが居残りました。

 ジョーはアース・ウィンド&ファイヤーを手掛けた人ですから、J.ガイルズ・バンドとの相性を疑う人もおりましたが、しっかりとバンドの良さを引き出しており、安心して聴けるサウンドになっています。デイヴの残留も大きいのかもしれません。

 心機一転とは言いましたけれども、しっかりと前作の流れを引き継いだスタジオ・アルバムとなっています。初期の頃の荒々しいブルース魂溢れる演奏をスタジオに親和的な姿に収めて、なおかつその熱気をしっかりと封じ込めている、そんなアルバムです。

 それぞれの楽器の音の分離もはっきりしていますし、団子状のサウンドで迫ってきた頃とは少し違います。ピーター・ウルフとセス・ジャストマンのコンビによる曲作りもさらに円熟味をまして、守備範囲も広くなり、自由自在になってきました。本作品では全曲が二人の作です。

 発売当時の日本盤の帯には、「J.ガイルズのギターが叫ぶ、ピーター・ウルフのヴォーカルが吠える、東海岸の誇るスーパー・バンドがアメリカン・ハードの心意気を叩きつける」と書かれています。何とも言えないB級の匂いが強い煽り文句です。

 作曲コンビは器用になりましたけれども、どうにも洗練されきらないところがこのバンドの魅力です。不思議なB級感と言えばよいでしょうか。演奏はガッツあふれる力強いものなのですが、とても気安い感じがします。スタジアムで演奏しても距離が近い。

 要因の一つはマジック・ディックのハーモニカにあるかもしれません。本作品の最後の曲「ジャスト・キャント・ストップ・ミー」でのワイルドな絶品ハーモニカを聴けば分かります。ガイルズのギター以上にディックのハーモニカは雄弁です。ブルース魂が降臨してきます。

 この頃の流行りでいえばイギリスのパブ・ロックに感触が似ています。ばりばりのオールド・スクールなはずの彼らが、むしろ新鮮な感じで受け止められたのはその点が大きいのではないでしょうか。少なくとも私の知人はパブ・ロックだと思っていた様子です。

 アルバムからは久しぶりにシングル・ヒットが出ました。「ワン・ラスト・キッス」がそれで、全米チャートでは35位にまで上昇しています。彼らにとっては「傷だらけの愛」以来のスマッシュ・ヒットです。アルバム自体は49位と今一つですが、光が見えてきた感じがあります。

*2013年1月29日付記事を加筆修正

Sanctuary / The J. Geils Band (1978 EMI)



Songs:
01. I Could Hurt You
02. One Last Kiss
03. Take It Back
04. Sanctuary
05. Teresa
06. Wild Man
07. I Can't Believe You
08. I Don't Hang Aound Much Anymore
09. Jus' Can't Stop Me

Personnel:
Peter Wolf : vocal
Seth Justman : keyboards, vocal
Magic Dick : harmonica
J. Geils : guitar
Daniel Klein : bass
Stephen Bladd : drums, vocal