NHK朝の連続テレビ小説「おかえりモネ」は朝ドラ史に残る名作だったと思います。朝ドラはちょっと昔の時代を扱うことが多く、ここまで同時代を扱った作品は珍しいです。ただ現代の方が私は好きです。その中でも「おかえりモネ」は「あまちゃん」と並ぶ傑作でした。

 ドラマの主題歌であるバンプ・オブ・チキンの「なないろ」も素敵な曲でしたけれども、劇を支えるサウンドトラックもまた素晴らしいものでした。このサントラを手掛けたのが高木正勝です。丹波の山奥に生活する高木は本作品にうってつけの人物でした。

 この作品は「おかえりモネ」のサントラ第一集です。あろうことか三枚組です。これまで朝ドラのサントラは前半と後半の二回にわけて発売されるのが普通であったとはいえ、それぞれが三枚組にもなるのは初めてのことではないでしょうか。

 しかし、他の朝ドラのサントラでもこれと同じくらいは曲が作られているのでしょう。半年のドラマのためにどれだけの音楽が制作されているのかと思うと頭が下がります。しかも劇中で使用されるのはもちろん全部なわけではないですし。

 本作品は「おかえりモネ」の前半部分、登米が舞台となっているところまでです。東京へはまだ出てきていないので、ブックレットにある出演者には高岡早紀も今田美桜の名前もありません。高木が本領を発揮する山のシーンが中心となっています。

 あえて大をつけない自然と人との共生、海と山のつながり、天気とともに暮らす人々の息吹を音楽にするには、まさに高木はうってつけのアーティストです。ドラマを見ている時からあまりにぴったり寄り添ってドラマを盛り上げている音楽に感嘆していたものでした。

 それがこうして各楽曲をオリジナルの長さでCD3枚分も聴けるのですから嬉しいことです。サントラには珍しくボーカルも入っています。アン・サリーや坂本美雨を始め、子どもや合唱団なども含めてスキャットばかりではなく、しっかりと歌詞のあるボーカルもあるんです。

 さらに楽器はストリングスやギター、ピアノ、フルートやサックスなどの管楽器、タブラやオカリナなど自由自在です。賑やかであったり、静かだったりとサントラらしく曲調はさまざまですが、いずれもモネに通じる透明感のあるサウンドであるところは共通しています。

 高木はnoteに各楽曲の解説を丁寧に書いています。それを読むとそれぞれの楽曲に対する制作側の要求を汲んだり、特定の場面を想定したりして、高木が作りあげた曲がまるで違う場面で使われたりすることがあるようです。それがかえって良かったりするのだそう。

 長丁場で制作陣と作曲家、アレンジャーの二人、演奏者たちの間で信頼関係が築かれていることがよく分かります。そこもまたドラマの雰囲気とぴったりと合っており、登米篇の空気感と共振しています。山は高木の独壇場でしょう。

 もはやどの場面でどの曲が流れていたのか分かるようで分からないのですが、このサウンドトラックは単体の作品として聴いていても十分気持ちがいいです。これみよがしな大きな盛り上がりがあるわけではなくて、どこまでも静かで深い作品です。

Okaeri Mone / Masakatsu Takagi (2021 メロディーパンチ)