この作品はレーベル公式サイトによれば「83年より3年に渡る精神疾患から立ち直った江戸アケミが活動再開として発表したオリジナル・アルバム第2弾(インディー)」です。第2弾ということは前作はデビュー・アルバムとなる「南蛮渡来」ですか。ちょっと驚きです。

 「南蛮渡来」は1982年の発表です。本作品「裸の王様」87年ですから、実に5年ぶりのアルバムということになります。その間3年間休んでいたわけですから、アルバム発表のペースとしてはそこまで間が空いているわけではないという言い方もできます。

 しかし、当時のインディーズ・シーンにあって、じゃがたらの存在感はかなり大きく、長年シーンに君臨していた気がするので、そもそもデビュー作が1982年で二作目が87年というのは何度聞いても驚いてしまいます。腹にしっくりこないんです。

 閑話休題、じゃがたらはアケミが1986年6月にステージに復帰すると生まれ変わったように猛然と活動を加速します。同年年末にはビデオ作品「みんな」を発表、本作品が続き、EP「ウキウキ」、さらに映画のサントラ「ロビンソンの庭」が立て続けに届けられました。

 再び公式サイトを引用すると、「前作と比べ洗練されたサウンドはより間口の広い作品となり、多くの人にも受け入れられた」アルバムです。じゃがたらが色濃くまとっていたアングラ、エログロの雰囲気とは一線を画すアルバムだったことは確かです。

 アルバムは全4曲、一曲一曲が10分見当の長い曲ばかりです。サウンド面でのリーダーだったOTOは「フェラ・クティのさ、2曲で1枚みたいなアルバムに異常に憧れてたんだよねオレ。」と語っています。そう聞かされるととても素直にこの構成が理解できます。

 「片面1曲ってのはムリだから、まずはじゃあ1曲10分ってサイズを常識にしたいなって」ということで、それだけのサイズがなかったという「岬で待つわ」など、「強引に、リズムだけ4分とかそのくらい埋めたんだよね」と屈託がありません。

 さらにスタジオには「水着ギャル」を呼んで、録音現場で「ホーンの人達のソロ盛り上げ」を図ったとのこと。この作品の妙に明るい雰囲気はそういうことだったのかとこれまた理解できました。いろいろと手を変え品を変え、工夫をこらすものなのですね。

 サウンドはフェラ・クティそのままではもちろんありませんが、レゲエであり、ファンクであり、アフロであり、とゴージャスに盛り上がっています。特にリズムがかっこいいので、1曲10分はまるで長いことはなく、むしろ短い気がするくらいです。

 OTOがかき集めたという、ていゆう、EBBY、NABE、ヤヒロトモヒロなど初期からのコアメンバーに加えて、篠田昌已や村田陽一などの実力派ミュージシャンが揃い、復帰して明るくなったアケミの力強いボーカルを支えていて非の打ちどころがありません。

 スキャンダラスな暗黒地下ロックの文脈でとらえるよりも、東京スカパラダイスオーケストラや生活向上委員会などとの親和性が高いサウンドです。この後、じゃがたらはメジャー・デビューもしますし、もっともっと日本の音楽シーンを豊かにするはずでしたけれども...。

The Naked King / JAGATARA (1987 Doctor)