「1979年から81年にかけて存在した、日本のロック史を語る上で欠かすことのできない極めて重要なレーベル、PASSの多彩な初期作品群を完璧にコレクト!」した作品です。確かにPASSからのシングルとEPは網羅されています。親切です。

 PASSは東京吉祥寺にあった輸入レコード店「ジョージア」の店主が、店員でもあり当時すでにロック評論家として頭角を現していた後藤義孝とともに設立したインディー・レーベルです。最初のレコードがフリクションのシングルでした。1979年8月のことです。

 ただし、インディーズとはいえ、一応メジャーなトリオ・レコードがディストリビューションを担当していましたし、店に通っていたという坂本龍一が制作にかかわっていたことで、他のインディーズとは一線を画していました。半メジャー的な感じです。

 しかし、その方法論が正しかったことは、フォークのURCと並んでPASSの作品群が何度も何度も再発されていることが証明しています。あの当時はインディーズ作品はたいてい入手困難でしたし、当時入手困難だったものは今でも入手困難です。

 ただし、PASSそのものはレコード店の倒産もあって、早々にその短い活動に終止符をうってしまいます。レーベル側が制作費を用意するというインディーズとしてはなかなかないアーティストに優しいレーベルだっただけに残念です。

 本作品はPASSが2005年に復活して旧譜を再発した際に編まれた編集盤です。レーベルから発表されたシングルとEPをほぼ網羅しており、さらにアーティスト秘蔵の音源が少し足されています。こうしてまとめてくれると大変助かる、ありがたいアルバムです。

 収録されているのは、まずフリクションの2枚。ただし、「アイ・キャント・テル」はアルバムと同じテイクだからでしょうか、収録されていません。そしてツネマツ・マサトシはEPに加えて新宿ロフトでのライヴ音源が初めて収録されています。これで一枚です。

 二枚目はフューと坂本龍一による名シングル「終曲/うらはら」、後にフリクションに入る茂木恵美子がいたボーイズ・ボーイズのシングル、そして突然段ボールのシングル「ホワイト・マン」と彼らのライヴ音源から一曲「感覚が記号なら」が収録されました。

 そして「PASSライヴ」と題する2枚組EPが全曲収録されています。これは神奈川大学で行われたライヴを収録したもので、突然段ボールとグンジョーガクレヨンが一枚ずつを分け合っていた作品でした。ここでの突段はシングルの時から比べると格段に整理されています。

 こうしてしみじみとPASSのレコードを振り返ってみると、フューや突然段ボールを始め、それぞれが息の長い活躍を続けていることに驚かされます。その点も他のインディーズ・レーベルとは大きく異なるところでした。短命に終わったのはレーベルだけともいえます。

 もしもレーベルの活動が続いていたとしたら、彼らの作品がもっともっと聴けたのかもしれないと思うととても残念です。特に2枚目の作品群はそれこそ擦り切れるくらい聴いていたものですから、それぞれLPを一枚残しただけというのは本当にもったいないです。

Pass No Past / Various Artists (2005 Pass)